ボディブロー型の米金融危機に要注意
米銀危機はタイム・ラグの只中
ここ何十年かに起きた金融危機は、急速かつ激しく進行する傾向があった。
ただ、通常は一握りの企業や国を中心に展開し、多くの場合は週跨ぎでの広域波及を恐れ、当局による緊急措置等で週末には落ち着きを取り戻すのがパターンである。
このパターンは、現在起きている混乱が最悪の局面を乗り切ったかもしれないという希望の根拠となっている。
今回の混乱もSVB(シリコンバレー銀行)とシグネチャー銀行の経営破綻、UBSグループによるクレディ・スイスの強制的な買収、そしてこうした出来事に対応しての米政府の実施した緊急対策というパターンを経ている。
現在、米国株式市場はVIX指数(S&P500株価指数の変動状況)が、18ポイント台と3月13日の26ポイント台から大きく低下し、落ち着いている。
しかし、現在の混乱は、徐々に腐食が進むスローモーション型の危機という別のパターンになりそうである。
SVBが破綻したのは各種の構造要因が重なったためだ。こうした要因は、程度は比較的軽いものの他の多くの金融機関も苦しめている。
このため、今後数年のうちに多くの銀行が業務縮小や身売りを余儀なくされ、その過程で信用供与もまた妨げられる可能性がある。
過去数十年間、世界中で銀行危機が発生するまでには通常、何年もかかった。
1980年から1994年にかけて、米国では主に小規模な貯蓄貸付組合(S&L)と、銀行約3000行が閉鎖または救済された。
S&L危機は、FRBがインフレを抑制するために政策金利を急激に引き上げた際に始まった。S&Lや銀行は当時、融資から得られる金利の低さと、預金やMMFの金利上昇のはざまで窮地に立たされた。
今回のエピソードも同じように始まった。2008年から2021年にかけて、FRBは金利をゼロ近辺に維持した。銀行は利回りを求めて、政府や連邦機関が保証するMBS(不動産担保証券)の保有を増やした。
2022年3月から政策金利が急上昇し始めると、これらの債券の市場価値は急落した。それに伴う損失はSVBで特に深刻だったが、問題があったのは同行だけではない。
米国の銀行全体の11%に当たる約500行で、金利上昇による保有資産の評価損失率がSVBよりも大きくなっている。それでも、過去の危機においては、結局のところデフォルト(債券不履行)の方がはるかに重要だった。
1980年代には商業用不動産向け融資がリセッション、住宅の供給過剰と石油・天然ガス相場の急落から打撃を受けた。メキシコなどの新興国は、(先進国の)の大手金融機関に対する債務でデフォルトに陥った。
2007年から2009年にかけては、サブプライム住宅ローンや、それに関連するデリバティブ(金融派生商品)が焦げ付いた。信用を巡る状況は現在、それほど心配ないように見える。
S&Pグローバル・レーティング(大手信用格付機関)は、2022年第3四半期の時点で銀行が保有する証券のうち、政府によって保証されているものの比率が86%と、2008年の71%を上回るとしている(残りは社債、民間のMBSや資産担保証券)。
銀行が最近まで異例なほど少ない貸倒損失から恩恵を受けてきたことは確か。自動車などの担保の価値が上がり過ぎていたためだ。
しかし、こうした損失は今後増えるとみられる。とりわけ小規模の銀行は商業用不動産関連の貸し出しが多い。
リセッションが起きればデフォルトは増えるが、それはまた金利の低下につながる可能性もある。そうなれば債券ポートフォリオの価値は上がる。実際、2022年第4四半期の含み損は債券利回りの低下で縮小した。
問題なのは負債側だ。そもそも、パンデミックへの政府の財政、FRBの金融面での政策対応が出発点だった。FRBは債券買い入れを再開し、財務省は大規模な景気刺激策や、
家系貯蓄を増やすなどの直接的な支援策を打ち出した。
その結果、預金額が急増。2021年9月には銀行の預金の対する融資の比率(預貸率)は、50年ぶりの低水準となる60%前後にまで低下した。
銀行預金のうち無担保部分の比率は増えていったも、こうして調達された資金は比較的留保性が高いとみなされていただけに、銀行側の収益性は落ちるものの、さしたるリスクとは考えていなかった。
ところが、急速に拡大したSNSなどネットバンキング、アプリによって状況は一変していった。
FDIC(連邦預金保険公社)によれば、銀行の顧客のうちインターネットや、モバイルバンキングを利用している者の比率は2017年の52%から21年には66%、22年には70%越えに拡大したという。
こうしたことは金利が0%に近い状態では問題にならなかった。預金者は、より高い金利の代替投資先をほとんど見いだせなかったからだ。
しかしFRBが昨年、政策金利を4%台まで引き上げていったことを受け、預金者は動き始めた。FRBが債券買い入れ策を逆転させたことが決定的一因となって、過去1年間に預金は減り続けた。
スマホで瞬時に引き出しができる。これによって、中堅以下の銀行は余剰準備金と預金が大きく失われていった。
全米第16位のSVBはその典型で、3月9日には420億ドルもの預金流出となり、翌日には1000億ドルに迫る流出となった。
FRBが運営する即時決済システム「FedNow」が7月から稼働するも、そうなると秒単位で巨額の預金シフトが重なることになり、銀行のリスクカバーには高いアセットマネジメントのテクニックが必須となる。
つまり、中小および地域金融機関にとって、大きな痛手となる確率が大きい。預金者はSNS上で少しでもリスキーな情報が流れると、
直ちに預金をビッグバンクにシフトさせるからだ。
実際、FRBの報告によると3月15日までの1週間に中小銀行の預金残高は、1200億ドル減少したが、大手銀行では660億ドル増加し、短期債やMMFにも流入したという。
FRB、FDICは5月から総資産1000億ドル~2500億ドルの金融機関に対し、厳しい規制強化とストレステストを実施する。この査定状況がSNSに流れた場合、米国の金融市場がどう反応するか。
ムーディーズ(格付機関)も今月、米銀行システムに対する信用格付け見通しを続々と引き下げた際に、多くの金融機関の預金に対する脅威を理由として挙げ、「有価証券の多額の含み損があり、リテール以外の預金者、無担保預金者を抱える米銀は、資金調達および流動性、利益、資本に悪影響が及ぶ恐れがあり、預金者による選別や急激な預金流出の影響を受けやすくなる」と指摘している。
また、インフレ率がFRBの目標である2%に戻るまで、高金利がこうした圧力をさらに高めるだろうとの見方を示している。
これは連邦政府による保護の範囲が預金全額に拡大されない限り、中小銀行の預金に対する圧力が長期化し、ひいては身売りや融資先への「貸し剥し」(早期全額返済)強要という由々しき事態につながりかねない。
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2023/04/05の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
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