SVB破綻の深さと広がり
FRBは方針転換へ
SVB(シリコンバレーバンク)破綻というモンスターが突如、米国発の世界金融・株式市場に現れた。
これにてFRBの金融政策が米国のインフレ抑制を第一にしてきたことから一転して、「世界の金融市場の安定維持」にシフトするのは必至。
したがって「ドル円140円見通し」は完全に仕切り直しというか吹き飛んでしまった。
とにかく、当レポート執筆の13日時点では大量のSVB関連ニュース、コメント、分析記事が流布されており収拾がつかない。
ただ、この問題が目先のインパクトで終結することにはなるまい。
2008年のときは、金融システムのほぼ全体がレバレッジ過剰で、評価に問題のある複雑な非流動性資産であふれていた。
しかし足元の状況は異なる。注視されている一部の金融機関は、いかなる問題も限定的で特異との印象だ。
言ってみれば、われわれが落ち着いている限り、金融システム全体の脅威とならず、終わりのない波及にはつながらないはずだ。
(米投資銀行ジェフリーズ・フィナンシャルグループCEO・12日)
上記のように主張するが、市場の動揺を抑えるためのドレッシング発言にすぎない。
金融界は明らかに動揺を始めた。
カリフォルニア州に本店を置くSVBは全米16位の金融機関というが、知名度も低く、全国的な銀行危機を引き起こすほどの規模でもない。
約2120億ドル(約29兆円)の資産規模は、JPモルガンチェースの1割にも届かない。
実際、テクノロジー関連のスタートアップ企業への融資という非常にニッチなビジネスを展開しているにすぎない。
だが、問題はまさにこの点にある。
SVBは8日遅く、ポートフォリオから証券約210億ドル相当を売却。さらに直近で22億5千万ドルもの資金調達をしている。
つまり、SVBの主たる預金者のスタートアップ企業が大量の預金引き出しをしていたからで、資金不足に追い込まれたのである。
スタートアップ企業はFRBの積極的かつ急速な利上げにより、投資家が慎重姿勢を強めるとともに米経済のリセッション不可避との懸念もあって、ベンチャーキャピタルからのファイナンスが枯渇。
となると止むを得ず、メインバンク先の預金を引き出すしかなくなってきたのである。
テクノロジーやスタートアップが経済にとってどれほど重要であるかをどんなに強調してもし過ぎることはないだろう。
世界経済フォーラム(WEF)は昨年5月に公表したリポートで、スタートアップ企業が世界で生み出した価値は主要7ヵ国(G7)経済のGDPにほぼ匹敵し、スタートアップ企業の資金調達額は2021年に世界で6000億ドルを突破したと指摘した。
テクノロジー業界の人員削減は増えるばかりだ。チャレンジャー・グレイ&クリスマスは9日、米2月の同業界の人員削減は2万人超と発表。
次に多かった小売業の8544人を大きく引き離したことを明らかにした。
昨年3月までゼロに近かった米国の政策金利が今では4.58%になっている。それでも米経済はほとんどの人々が予想していたリセッションを回避している。
コロナ禍とウクライナ戦争、米中経済摩擦による歪んだ構造が生んだ“手品”が続いたが、遂にこのSVB破綻が炭鉱のカナリヤとして登場したことを意味する。
筆者が13日までのSVB関連情報で最も重視したのは、サマーズ・ハーバード大学教授(元米財務長官、現在、ブルンバーグTVのコメンテーターを兼務)の12日付コメントだ。
SVBの経営破綻について、規制・監督当局がスムーズに解決しなければ、米経済のイノベーションセクターに重大な影響が予想される。
この状況をうまく乗り切れると政府が保証できない限り、シリコンバレーと活力に満ちていたベンチャーセクター全体の経済活動に、多大な影響が間違いなく生じるだろう。
来週の給与支払いにその資金を充てる予定だったスタートアップ企業が数十社存在している。それができなければ、わが国のイノベーションシステムに実際かなり重大な影響が及ぶだろう。
規制・監督当局が積極的に対応することを期待したい。
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(2023/03/15の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。)