日本の賃金が上がらない理由
日本の低い賃金が国内外で「特異な国」として話題となっている。
確かに日本の賃金水準はバブル経済が崩壊した1990年代から低迷が続いており、欧米の先進国との差が広がる一方にあるし、最近では隣の韓国との差が計算法次第では逆転したとの取材報道も出てきた。
なぜ、日本の賃金は長い間上がらないままなのか。それどころか昨年以降は、大幅な物価上昇と社会的負担増により明らかに実質賃金が低下している。
本稿は、この状況をザックリとしたデータで分析・解明するものである。
日本の賃金立ち位置
国税庁が昨年9月に発表した「令和3年分民間給与実態統計調査」によると、2021年に1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与(基本給、手当、賞与の合計)は、443万3千円で2020年の433万1千円と比べて2.4%増加した。
(男性=545万3千円で+2.5%、女性は302万円で+3.2%)
2021年の賃金が増加した理由としては、新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、雇用が不安定化し、賞与が減少した2020年からの反動が考えられる。
1989年以降の日本の給与所得者の年間平均給与の前年比引上げ率は、バブル経済が崩壊する直前の1990年とバブル経済が崩壊した1991年にはそれぞれ5.7%と5.0%で相対的に高い引上げ率を見せたものの、それ以後の引き上げ率は1%前後かマイナスの傾向が目立っている。
G7諸国や韓国と比べた日本の賃上げ率も相対的に低い。
物価水準を反映した2001年から2020年までの20年間の実質賃金上昇率と、11年から20年までの10年間の同上昇率は、以下の通りである。
韓国 38.7%/ 14.6%
カナダ 26%/ 9.6%
米国 24.3%/ 13.5%
ドイツ 17%/ 11.9%
フランス 16.8%/ 3%
英国 12.5%/ 2.4%。
なんと日本は1.4%/ ▼0.5%とイタリアの▼4.3%/ ▼6.8%と伴にダントツの低い伸びとなっている。
また、日韓の各年の名目平均賃金をその年の平均為替レートでドル換算(IMFデータを利用)した平均賃金は、2021年時点で日本が4万491ドルと、韓国の3万7174ドルを上回っているものの、年々その差は縮まっている。
一方、購買力平価によるドル換算の日韓の平均賃金は2015年に逆転し、2021年の平均賃金は韓国が4万2747ドルと日本の3万9711ドルを約3千ドル上回っている。
購買力平価とは、ある国である価格で買える商品が他国なら、いくらで買えるかを示す交換レート、つまりモノやサービスを基準にした為替レートであり、より実感的な賃金比較となるゆえ、唖然とする。
賃金上がらぬ4つの理由
バブル経済崩壊以降の最近30年間、日本の賃金がほとんど上がらなかった理由は一体、どこにあるのか。
1. 低賃金労働者の増加
まず1番目の理由として、マクロ的な側面で相対的に賃金水準が低い非正規労働者、女性、高齢者、サービス業従事者が増加した点が挙げられる。
1985年に20.2%であった非正規労働者の割合は2021年には36.7%まで増加した。
国税庁の「民間給与実態統計調査」をみると、2021年の正社員の年間平均給与は508万円であることに比べて、正社員以外は198万円で、正社員の約39%水準に過ぎないことが明らかになった。
女性の労働力率は1989年の56.2%から2021年には73.2%まで上昇し、また同期間の65~69歳高齢者の労働力率も37.9%から51.7%まで上昇した。
更に非正規労働者が多いサービス業等の第3次産業で従事する就業者(大企業の現業社員も含む)が全就業者に占める割合は同期間に58.7%から73.8%と、大きく上昇した。
2. 低い生産性が未改善
2番目の理由としては、低い生産性が改善されない点が賃上げにマイナス影響を与えていると考えられる。
生産性と賃上げの関係は厚労省がOECD諸国の「実質労働生産性変化率」と、「実質雇用者報酬変化率」を用いた結果から確認できる。
厚労省は「近年、実質労働生産性の上昇と実質賃金の上昇の間の関係が弱まっているものの、国際的には依然として実質労働生産性が上昇すると実質賃金が上昇する関係がみられる」と、結語している。
日本生産性本部の報告書によると、2021年の日本の就業者1人当たり労働生産性は、購買力平価換算で8万1510ドル(818万円)、OECD加盟38カ国の中で29位に留まっていることが明らかになった。
G7諸国の中では最も低い水準だ。
日本の就業者1人当たり労働生産性は1997年に20位に順位を下げてから、24年間も20位圏から抜け出せない状況にある。
日本の生産性が大きく改善されない理由としては、正規職を中心にサービス残業を、含む長時間勤務が残存している点、賃金に年功序列部分が多く反映されているため、企業に対する寄与度ほど賃金が上がらない若年層の勤労意欲が低下している点、大企業と比べて相対的に投資できず、その結果生産性向上の実現が難しい中小企業の比率(実に全企業の約99.7%)が高い点などが挙げられる。
・・・
続きは「イーグルフライ」の掲示板でお読みいただけます。
(この記事は 2023年1月15日に書かれたものです)