日本は大幅賃上げが出来るのか
異様で異質なインフレの高波
10月のコアCPIは前年比3.6%の上昇となった。
年末までに4%に達する可能性も現実味を帯びてきた。
これほどの物価上昇は約40年ぶりであり、
消費税引き上げで物価が跳ね上がった時にもなかったことである。
それでも日銀が異次元の金融緩和をやめないのは、なぜか。
1. 急騰する輸入コストの価格転嫁によるインフレ
今起きているのは景気が強すぎることによるインフレではなく、
急騰する輸入コストの価格転嫁によるインフレである。
輸入物価は前年比40%以上も上昇しているのだから、
CPIの上昇が4%程度で済んでいることにむしろ驚いた方がよい。
その陰には、苦しみながら価格転嫁を最小限にとどめている企業の努力がある。
その最小限の価格転嫁すら許さない姿勢で日銀が物価を抑えようとすれば、
利上げは相当大幅なものになり景気に甚大な影響が出る。
2. 日銀の2%物価目標が未達成
日銀が金科玉条とする2%物価目標は達成されていない。
4%インフレなのに2%物価目標が未達というのはわかりにくいかもしれないが、
それは現在のインフレが「輸入インフレ」であるという前述の点と関係する。
輸入インフレは国民生活を苦しめるものであり、日銀は輸入インフレでも
2%になりさえすれば良いと考えているわけではない。
2%物価目標の2%は、あくまで「日銀が望む形」での2%でなければならないのである。
「日銀が望む形」とは、2%インフレが自律的・安定的に続く状態のことである。
自律的・安定的に続くためには、2%インフレが国民を苦しめてはならず、
それは何の抵抗もなく空気のように日常に溶け込むものでなければならない。
今の物価上昇は国中に大騒ぎを引き起こし、メディアもそれを連日報道し、
政府は物価対策に大わらわなのだから、とても「空気のように溶け込んだ」もの
とは言えない。
コロナウィルスのパンデミック、ウクライナ戦争をベースにしたエネルギー価格・
国際商品価格の高騰、米国金利急上昇による大幅円安などが一気に重なって起きた
「異常事態の中のインフレ」なのである。
異次元の賃上げが必須に
2%インフレが当たり前の日常であるためには、それ以上の賃金上昇
(年金生活者はニッチもサッチもいかず)が当たり前の日常でなければならない。
物価と賃金の間にそういう関係が成立して初めて、2%インフレは、
人々を苦しめるものではなくなる(生活者実感としてのインフレ率は6%あたりか)。
そのために必要な賃金上昇率を日銀は3%程度とみている。
もちろん、厳密に3%かどうかはよくわからない。
日本経済の潜在成長率や労働時間の傾向的な動きなどによっても、
それは変わってくる。
その点に留意したうえで、とりあえず「2%物価上昇」=「3%賃金目標」と、
置き換えてみると、そのハードルはきわめて高いということがわかる。
まず、最近の賃金上昇率は、月々の振れを均せば1%台半ばまであり、
ここから3%までは結構な距離が残っている。
実はこの1%台半ばでも、過去30年では最も高い部類に属する。
脱コロナ禍で急に人手不足となり、賞与も3年間の減少を埋め合わせるべく
一気に回復している。
だとすれば、今程度の賃金上昇率でさえ一時的な押し上げ要素に
支えられているのかもしれない。
賃金上昇率がここを突破し、さらに高まった状態で長く維持されるというのは、
過去30年から「レジーム転換」とも言うべき「異次元」なのである。
そんな大転換が仮に起きるとすれば最初の分岐点は来年の春闘であり、
日銀が最も注目しているのもそこである。
技術的なことを言えば、マクロの賃金上昇率と春闘の賃上げ率との間には、
平均すると2%弱の乖離がある。
春闘の賃上げ率には定昇分(賃金カーブが不変でも個々人が勤続年数に応じて
昇給される分)が、含まれているからである。
すると、マクロの賃金上昇率が3%で持続的に上昇するには、
春闘の賃上げ率は毎年5%近くにならなければならない。
近年の春闘賃上げ率は2%台前半が精々であり、
それが一気に5%に近づく可能性は乏しい。
このように「異次元の緩和」からの脱却には「異次元の賃金上昇」が必要である。
そこを冷静に考えれば、来年も2%物価上昇(=3%の賃金目標)が
達成される可能性はほとんどない。
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(この記事は 2022年12月10日に書かれたものです)
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