マイナカード化の恐ろしき深謀
マイナンバーカード(以下・マイナカード)が、なかなか普及しないことに業を煮やした政府は、河野デジタル相に全権を委託する形で、誰もが必要不可欠な「健康保険証」を2024年秋に廃止し、「マイナ保険証」としてマイナカードに統一する方針を打ち出させた(10月13日)。
つまり、健康保険証+マイナカード一体化計画によって、事実上のマイナカード強制策に出たのである。
しかし、この先の展望には幾多の困難とブーイングが待っているのは必至であり、デジタル省だけでは着地点には届くまい…
福祉名目の個人監視システムへ
そもそも共通番号=マイナンバー制度とは、個人を識別し、年金などの生涯を通して、追跡できるタテ軸情報と、医療・介護など分野を超えるヨコ軸情報を結び付けて照合できる仕組みである。
1970年代には国民総背番号制をつくるなどの話があったが、反対が強くて進められずに終わった経緯がある。ただ留意しておかねばならないのは、当時、総背番号制を提起したのは大蔵省であり、脱税防止が狙いだった。
総背番号化すれば、個人の金融証券口座の状況がすべて掌握されるわけで、総資産の全体像が把握されることになる。仮に「資産課税制度」を強化しようとするなら、国にとって最も都合の良い状況と化す。
2009年に成立した民主党政権が「福祉をあまねく行き渡らせる」との大義名分を掲げて、「複数の機関が保管する個人情報を同一人の情報であることの確認をする」「社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性の高い、公平・公正な社会実現のための社会基盤(インフラ)だ」などの説明で、2013年に番号法を成立させたが実は、この原案も財務省(国税庁)が中心となって作成された。
社会福祉・国民生活の利便性を抱き合わせにして民主党政権を使って、住民監視体制をまんまと法制化したのである。
付番号作業は直ちに実施されたが、マイナカードの普及率は6年かけてようやく5割にすぎない。そもそも番号法では、マイナカードの申請は「任意」となっているのだから、おかしくはない。
2019年の「Tカード事件」を思い出してほしい。
レンタル大手の「TSUTAYA」で知られるカルチャア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が、運営するポイントカード「Tカード」の会員情報(履歴)が裁判所の令状なしに警察へ提供され、犯罪捜査で活用されていた事件。
当時、「Tカード」をはじめ、「dポイントカード」「PASMO」「Suica 」、そして「Pontaカード」などの情報を入手するのは「捜査の基本」とされていた。
しかし、カード利用者に無断で警察に情報提供されていた事実が報道されたことを受け、CCCはカード利用者に謝罪。警察の令状なしには原則として応じない方針へと変えた。
政府はこの事件以降、マイナカード普及のため、惜しげもなく税金を注入するようになった。
マイナカードによるコンビニでの住民票発行サービス、普及率向上への総額1兆8千億円分のポイント配布など、必死の構えになっている。
それでも国民側は依然として、
(1)申請・取得手続きが面倒、
(2)健康保険証や運転免許証など用途ごとにカードがあり、利益を感じない、
(3)個人情報の流出や悪用が怖い
などで申請が鈍い。
博打に出た迷走政権
しかし、なぜ突如、健康保険証廃止、マイナカード一本化を言い出したのか。まさに最後の切り札と言える。
案の定、カード申請していない国民は「カードを取得していなければ2年後から保険診療設けられなくなる」との誤解で、市中にあるカード申請窓口には、あわてて申請の列をつくっている。
実際にはマイナカードがなくても必ず、紙の健康保険証が発行され100%、保健医療は実施されるが、仮に「資格証明書」措置が導入された場合は、ひとまず医療資金額を負担したあと数カ月後に還付という事態になりかねない。
マイナカード不所持者に対する制度設計がまだされていない以上、そういうことも十分にありうる。
岸田首相は相当焦っているようで、今年に入ってからもマイナカード政策は二転三転、迷走している。
今年6月に閣議決定した「骨太の方針」では、24年度には保険証発行の「選択制をめざす」となっていた。
実は政府は昨年10月から、希望者にはマイナカードで保険資格を確認する本格運用を始めている。
ただし、実際にこれが機能するためには、カード保有者に健保の利用資格があるかどうかの「オンライン資格確認」をするカード読み取り機を各医療機関が備える必要がある。
今年8月の中医協(中央社会保険医療協議会)では機器整備を原則義務化する方針を打ち出している。
しかし、現状で読み取り機を設置しているのは大病院など3割程度で、費用負担や窓口対応の不安などから現場では反発のほうが大きいという。
本当に2年後に健康保険証を廃止できるのか。2つの大きな問題が発生する。
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(この記事は 2022年11月06日に書かれたものです)