SDGsは、まやかしなり!
神宮外苑の歴史的イチョウ並木の樹木約900本が伐採される。風致地区なんぞ、権力の一声で「利益構造地区」に転換されることが見事に露呈した典型例である。
この推移を知ることで「権力」の怖さと異様性の本質を感じとっていただきたい。もちろん、東京五輪開催が大いに利用されている。
国民の寄付と勤労奉仕で造営され、東京都心の風致地区として100年近く守られてきた明治神宮外苑地区が大規模な再開発の波にさらされている。
多くの樹木を伐採し、超高層ビルなど複数の高層建築物を造る計画だ。実現すれば100年の景観は一変する。
東京五輪が発火点
再開発の中心とされるのは、神宮球場と秩父宮ラグビー場の敷地を交換しての建て替えだ。これに併せて、オフィスや商業施設が入る高層ビル(190メートル、185メートル、80メートル)なども建てる。
東京都都市計画審議会(都計審)は2月、この計画を承認したが、その直前、ある都市計画のベテラン研究者が「1000本近い樹木が伐採される可能性がある」と独自調査を発表(中央大学研究開発機構の石川幹子教授)。
再開発の問題点が一気に表面化し、マスメディアも一斉に取材報道を始めた。再開発の具体案は昨年12月の住民説明会で示されたが、事業者側は一切、1000本近い樹木伐採予定に言及していなかった。
ようやく、石川教授の指摘で最大971本を切る可能性を認めたも、都計審のメンバーすら「知らなかった」と驚く事態となった。
外苑は1926年の創建以来、都の風致地区条例等により、その豊かな緑の環境が守られてきた。
なぜ今回、これほど大規模な再開発が可能になったのか。直接のきっかけは、紛れもなく東京五輪である。五輪のメインスタジアムとしての国立競技場を建て替える計画が浮上。
都は2013年、都計審(審議会はどれもこれも権力側によって委員が推挙される)の審議を経て、一帯の建築規制を緩和した。
それまで高さ15メートルを超える建て物は制限されていたが、75メートル(さらに後に80メートルへ)一気に拡大した。
都は風致を守る立場にありながら自らその禁を解いたことになる。
この再開発は、三井不動産と再開発エリアの地権者の明治神宮、独立行政邦人日本スポーツ振興センター(JSC)、伊藤忠商事の四者で行なうが、規制緩和の役割を担った都も深く関わっている。
都の資料によると、規制緩和の一年前の2012年5月、佐藤副知事と再開発事業を担う部署の幹部である安井技監(当時)の2人が森喜朗元首相を訪ね、再開発計画について説明している。
まだ五輪の開催都市に決定する前である(つまり、この時点で東京五輪開催は事実上、
決定していたと言っていい)。
安井氏は、五輪前に国立競技場建て替えを柱とする第一段階の開発を、五輪後に球場やラグビー場など第二段階の開発を始めると説。
都が地権者らと覚え書きを結び、表向き、今回の再開発の検討がスタートしたのは2015年である。だが、それより3年前、いまから10年前には検討は始まっていた。
都は森氏に面談する少し前に水面下で関係地権者と協議を始め、一定の青写真を描き、有力政治家にも説明していたようだ。
新国立競技場の設計者となった隈研吾氏は高さを抑えようとしたが、その時には高層ビルの検討も陰では進んでいた可能性がある。
こう見ると、再開発のために五輪を口実にしたのではとの疑念が浮かぶも、
真相はまだ分からない。
少なくとも都幹部と森氏の面会記録はあるのだから疑いは濃厚である。
また、面談の事実を都議会で暴露されるまで、「記録は見当たらない」とはぐらかし続けてきたのだから明らかに不都合な経緯だったことは間違いあるまい。
明治神宮の窮状が背景に
それでは対外的に説明される再開発の理由は何だろう。都によると、外苑地区を「世界に誇れるスポーツクラスター」に作り替えることにあった。
その妥当性はわからないが「再開発の本質は商業施設の拡大」としか言い様がない。
つまり、民間企業の収益機会を供与するために政界と都政が深く協力するという、
いつものパターンである。
新たに整備される建築物の床面積のうち6割強~8割ほどは商業利用が占める。野球場などに比べ、特に190メートル、185メートルの超高層ビルのボリュームが圧倒的だからだ。
実は、この2つのビルこそ今回のポイントだ。建物を造る際には敷地ごとに大きさ(容積)の上限がある。再開発では一定の条件で余った容積を近くの敷地に譲ることができる。容積移転などと呼ばれる手法だ。
都によると、外苑でも、明治神宮やJSCの土地から余った容積を譲ることで、2棟の超高層ビルの建設が可能になった。
その対価として両者はそれぞれ、神宮球場や秩父宮ラグビー場の建て替え資金を得るとみられる。
外苑を所有する明治神宮の意向は再開発のカギを握るが、「球場建て替えの資金調達に
メドがついたことが、再開発に参加する大きな動機の一つ」と神社界の関係者は指摘したという。
広大な内外苑の維持費が大きな負担となり、日本有数の神社である明治神宮も財政は潤沢とは言えないというわけである。
収支を支えるのは神宮球場や、結婚式場の明治記念館だが、稼ぎ頭の球場は今年で建設から96年。
これまでも度々建て替えを検討したが、資金不足などで断念してきたという。建て替えという「悲願」のために超高層ビルは欠かせない存在だが、同時に景観を侵害するという皮肉をはらむ。
いずれにしても明治神宮の財政問題が再開発の背景にあることは確かだ。
・・・
続きは「イーグルフライ」の掲示板でお読みいただけます。
(この記事は 2022年10月16日に書かれたものです)
関連記事
https://real-int.jp/articles/1815/
https://real-int.jp/articles/1813/