EUとりわけドイツを襲うエネルギー危機
EUは四苦八苦の防戦対策へ
EUは対ロシア経済制裁の一環として石炭および固形型化石燃料のロシアからの輸入を8月以降は禁止し、原油は12月5日、石油製品も来年2月5日からの禁輸を予定している
(原油のパイプライン輸入は禁輸対象外)。
一方、短期的な代替調達が難しい天然ガスについては、禁輸措置を講じずにロシア産ガス輸入を年内に3分の1に削減することを目指していたが、ロシア側から天然ガスのパイプラインによる供給を大幅に縮小したため、強制的に削減せざるを得ない状況になっている。
ロシアは5月からベラルーシ・ポーランド経由の「ヤマルヨーロッパ」からのガス供給を停止、主要パイプライン「ノルドストリーム」からの供給も段階的に減少させた後、8月末以降は供給を停止している。
EUはこれまで、11月1日までにガス貯蔵水準を容量の80%以上とすることを義務化し(23年以降は90%の貯蔵を義務付け)、代替調達を加速してロシア以外からのガス確保に取り組んできた。
また、ロシアのガス供給が段階的に削減されてきたことを受け、ガス使用の削減に関する目標も設定した。具体的には8月1日~23年3月31日までのガス消費量を過去5年の平均化で、15%削減する目標を設定している。
そして今後、エネルギー需給が逼迫する場合は閣僚理事会が「警報」を発動し、ガス使用の削減を義務化することで合意している。
11月以降は特に暖房や発電でガス需要が2倍に増える時期であり、ガス不足が発生すれば、生産、消費活動の低下に直結するだけに、強い警戒が広がっている。
現在、EUのガス貯蔵量は全体で80%目標を上回り、足下ではEUにおける2020年のガス消費量の22%以上を確保していることになる。
一方、ロシア産のガスが輸入に占める割合はロシアのウクライナ侵攻前の40%から9%まで低下している。今後もロシアのガス供給が再度拡大する見込みは低く、年後半のガス供給量は例年対比で大幅に減少すると見られる。
現段階でEU執行部から「警報」が発動される可能性は高くないとされてはいるが、夏の猛暑の逆=酷寒に見舞われたときは、そうはいくまい。とんでもない経済の下押し圧力となることも想定しておく必要がある。
EUが提案していた「ロシアからのガス輸入に上限価格を設定する」の構想も、ロシアによるガス供給の完全停止やLNG(液化天然ガス)輸入の減少を招くとの懸念から見送られた。
そこでEUはエネルギー危機への対応策を9月14日の欧州委員会でフォンデアライエン委員長(EUの首相)が打ち出してきた。
(1)加盟国に対して電力消費をピークアワーに5%、全体でも最低10%削減を義務化、
(2)高騰するガス価格が主に反映されるエネルギー価格よりも低いコストで、発電可能な生産者からの買い取り価格に1メガワット時当たり180ユーロの上限を設け、そこから得られる1400億ユーロの超過利潤相当分を物価高騰に苦しむ家計支援に充てる、
(3)エネルギーの販売価格を固定する生産者の損失拡大を流動性の支援や損失の一部補填でカバーする、などが盛り込まれた。
今後、加盟国と協議し月内の合意を目指す。
危険なドイツ経済の先行き
市場関係者の多くはEU経済の動向を分析・予測する際に第一に注目するのがドイツである。域内GDPの3分の1近くを占めるのだから当然である。
そのドイツは、2020年の時点で天然ガスの総供給の62.4%がロシア産と、ガス依存度が非常に高かったためにロシアからのガスの供給削減の影響を強く受けざるを得なかった(ユーロ圏全体だとロシアのガスのウェイトは34.4%)。
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(この記事は 2022年9月20日に書かれたものです)