ダッチロール現象の米国経済なり
労働市場がインフレ抑制を阻害
8月2日の東京市場でつけた1ドル130円40銭の円高は8日には135円57銭と実に5円幅も、円安に引き戻された。
最大の要因は5日に発表された米国7月雇用統計の内容が良好だったことで、FRBが9月のFOMCで再び75bp(0.75%)の利上げを実施するとの読みが一気に台頭し、米金利が再上昇したことにある。
加えて、8月6日、FRBボウマン理事の発言も追い打ちをかけた。今後も物価上昇率の持続的な低下が確認できるまで75bp程度の利上げを検討すべきだ。
食料、住宅、燃料、自動車などの必需品は来年まで高インフレが続く。家賃も近い将来に下がることはない。物価上昇率を2%に戻すまで金融政策の手段を使い続けることが絶対に重要だ。
7月の雇用統計についても、労働力人口が回復できていない。コロナ禍で労働市場から出て職探しをしていない人が400万人に上る。
労働市場の逼迫で過剰なインフレが続くことはリスクであり、さらなる景気の減速を招き、1970年代に経験したような高インフレと景気低迷の長期化が懸念される。
確かに、雇用者数はもちろん、失業率も3.5%と前月(3.6%)から改善した。平均時給も前年比+5.2%と、前月(+5.2%)と市場のピークアウト予想に反して強い伸びのままだった。
ただ、FRBボウマン理事が指摘した通り、仕事を探そうとしないため失業者に数えない「非労働力人口」の増加が示されていてインフレ圧力のさらなる要因も含んでいる。
「歴史上、最も多くの人々が働いている」とは雇用統計発表直後のバイデン大統領のコメントだった。就業者数は1億5253万人と、2020年2月(コロナ禍直前)の1億5250万人を超えて過去最高になった。
しかし、市場が重視する毎月の就労者数は企業への調査での結果であって、家計調査とはコロナ禍の21年秋以降、乖離が目立つ。その家計調査では明らかに22年4月~7月まで伸びが止まったままだ。
つまり、仕事の手法が複雑になり複数のパート労働を掛け持つ人が多くなり、企業統計上、ダブルカウントされている可能性が高い。
では、雇用者数が頭打ちならば、ナゼ失業率が下がったのか。失業率とは就業者と失業者を合わせた労働力人口に占める失業者の割合。
7月は分母の労働力人口が1億6396万人と前月から6万3000人減った。一方、分子の失業者数の減り幅(24万2000人)が大きかったため、失業率の低下となった。
実は分母の「労働力人口」には職探しのための「就労希望申請書」を提出中の人々も含まれている。ところが、職探しをしない人が7月までに約400万人もいることがわかっている。
つまり、就労者も増え、失業者も減っているのだが、潜在的な労働力人口が400万人もいて、賃金や労働条件次第では働き手になる可能性があり、これが賃金上昇、労働コスト上昇からインフレ圧力を継続させるとの懸念につながるというのである。
失業者1人に対し1.8件の求人がある。コロナ禍前は1.2件程度だったゆえ、約400万人もの潜在労働人口に属する人々にとっては、チャンスでもあるわけだ。
リセッション懸念の激しい浮沈
しかし、米国経済のリセッション予測も依然としてエコノミストたちのバトルとして論壇を占拠している。
7月28日発表の米4-6月期実質GDP(速報値)は前期比年率換算でマイナス0.9%(1-3月は同マイナス1.6%)と2四半期連続のマイナス成長。
在庫投資のマイナス寄与が大きかったが、景気の基調を見るうえで重要な国内最終需要(在庫投資と純輸出を除く)も同マイナス0.3%とマイナスに転じており、足元の景気が弱含んでいる様子が明確に示される結果となった。
物価上昇圧力が高まる中、FRBの積極的な金融引き締め政策の影響が現れ始めたといえる。
GDPの7割を占める個人消費には息切れ懸念が強まっている。実質民間最終消費支出は前期比年率+1.0%(1-3月=+1.8%)と鈍化した。
コロナ禍が一服し、飲食や宿泊などのサービス消費が伸びる一方、製品の消費は大幅に落ち込んだ。高インフレが続き、個人の消費余力を奪っている。
インフレは所得に占める生活必需品への支出割合が多い中低所得層への打撃が大きい。米小売り大手のウォルマートが23年1月期通期の利益予想を大幅に下方修正した。
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(この記事は 2022年8月10日に書かれたものです)