南太平洋島嶼国(しょこく)を狙う中国(上)
中国・太平洋諸国の安保合意見送り
世界中が政治的経済的枠組みの大修正に発展しかねないロシアによる対ウクライナ戦争の行くえに注力している最中の5月30日、中国の王毅外相がフィジーで南太平洋の島嶼諸国10か国と外相会合を開いた。
ここで中国側は安全保障面での協力強化を含む協定策を提示し、一気に基本合意を迫った。
しかし、米国と安保上の関係が深いミクロネシア連邦が強く拒否し、中国は一旦、合意形成のスタンスを見送らざるを得なかった。
事前にミクロネシアの大統領が会合参加国すべてに、中国の提案を受け入れないよう求める書簡を送っていたことがブレーキにつながったようだ。
そこには、こう書かれていた。協定案で合意すれば、米豪などと中国との対立が激化し「新たな冷戦時代や世界大戦をもたらす可能性がある」。
インド太平洋を舞台とした米中の覇権争いに巻き込まれることになりかねない。
王外相が会合に向けて島嶼国10か国の歴訪で最初の訪問国に選んだソロモン諸島とは、この4月に安全保障協定を締結している。この協定では中国軍の派遣などを認めているとされる。
中国がこの地域で影響力拡大を図るのは、米国との覇権争いをにらみ、中・長期的に安保上の橋頭堡( きょうとうほ )を築く思惑からだ。
米豪の影響力が強い島嶼国に海軍の補給拠点を設けることができれば、対米防衛ラインである「第2列島線」を越えた海域での作戦も可能になる。
島嶼国に拠点を置いて米豪海軍の動向を把握するとともに、島嶼国を経済的に抱き込み、中国包囲網を突破する狙いもある。
さらに中国は島嶼14か国の中で台湾と外交関係を維持する4か国の切り崩しも図っているし、米国と親密なミクロネシア連邦、マーシャル諸島、パラオの3か国に、中国が楔を打ち込めることができれば米国に大きな打撃となることも承知している。
ガダルカナル戦が天王山だった
それにしても、中国が早々とソロモン諸島国と安保協定を締結したことは歴史的にも極めて意味深いものがある。
つまり、太平洋戦争における日本のガダルカナル島攻略と、米軍との死闘を分析し切った上での中国の行動と捉えるしかないのである。
ソロモン諸島はかつて英国の植民地であり、今は独立国になっている。その諸島の中心にあるのがガダルカナル島。日米戦争最初の激戦地となり、ソロモン諸島を巡る一連の消耗戦が日米戦争の帰趨を決したといってもいい。
日米戦争下、日本軍の太平洋での攻勢はガダルカナル島で止められる。一方、米軍はガダルカナル島を橋頭堡として日本を次第に追い詰めいった。
ソロモン諸島が日米戦争の帰趨を決する地になったのは、ここが東太平洋と西太平洋、さらには豪州の結節点となっているからだ。
ソロモン諸島を確保できるかどうかが、攻勢に回るか、守勢に立つかの焦点にさえなる。
太平洋で勢力圏を争うとき、重要なのは拠点づくりとなる島の確保と支配だ。
勢力圏は島づたいに広げることになり、そうした拠点づくりに向いている島々はソロモン諸島を含めて南半球にある。西太平洋の勢力が南半球にあって、インドネシア、ニューギニア、ニューブリテン島と押えていくなら、次はソロモン諸島である。
一方、東半球の戦力の場合、フィジー諸島、サモア諸島などからニューヘブリディーズ諸島(現在のバヌアツ)へ押し出し、つづいてはソロモン諸島となる。
ソロモン諸島は、東太平洋と西太平洋の均衡点にあり、アジア圏とメラネシアをはじめとする大洋圏がぶつかり合っている。
しかも、ソロモン諸島は豪州の北東に位置し、豪州の安全保障にとっても重要な地位にある。ここを奪われるなら、豪州の動きはかなりの制限を受けてしまう。
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(下)に続く。
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(この記事は 2022年6月5日に書かれたものです)
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