露・ウクライナ戦争とトルコ(その2)
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https://real-int.jp/articles/1480/
5月22日、スイスのダボスで「世界経済フォーラム」(WEF)の年次総会が開催された(26日まで)。今年の会議では、ロシア・ウクライナ戦争、景気後退、食糧危機などが話題になった。なかでも、「ロシアは次にどう出るか」「冷戦2.0」と題した2つの政治セッションが人気だったようだ。
一次産品ショック
しかし、一般の人々にとっての最大の関心は、やはり日々の暮らしである。4月26日に世界銀行がロシア・ウクライナ戦争の長期化による悪影響(一次産品ショック)を報告したが、それは早いペースで各国民の日常を直撃している。日本経済も例外ではない。
帝国データバンクの食品や飲料メーカー105社を対象として調査では、原油高、円安、供給不足などにより6月・7月で3100品目の商品が値上げを予定している。
さらに、液化天然ガス(LNG)、石炭の価格高騰で大手電力会社のうち4社(東京電力、北海道電力、中部電力、九州電力)が7月分の電気料金の値上げを発表しており、今後の値上げも予定されている。
世界銀行は、2022年のブレント原油価格の平均が、2013年以来の最高水準である1バーレル当たり100ドルに達すると予測している。
ブレント原油価格は2023年には1バーレル当たりの平均価格が92ドルにまで下落すると分析されているが、近年、1バーレル60ドル台で推移していた平均価格からすれば十分高値といえる。
また、天然ガス、石炭についても、2023年以降も高値が続くと見られている。ロシア・ウクライナ戦争の長期化は、一次産品ショックから世界的スタグフレーションのリスクを高めている。
各国政府は、この状況への対応策として、短期的には減税や補助金政策を打ち出し始めている。また、中長期的な視点で、需要抑制政策の推進や代替供給源を見つけようとしている。
こうした経済的対応策とならんで、早急に求められているのは、できるだけ早期に戦争を終結させることだろう。
そこで、注目されているのが、ロシアとウクライナ両国を交渉のテーブルにつけた実績のあるトルコのエルドアン大統領の仲介努力である。
以下では、前回に続き、トルコの最近の外交に焦点を当て、動向を分析する。そのことで、トルコがどの程度、ロシア・ウクライナ戦争の早期解決に寄与できるのか検討したい。
エルドアン政権の全方位外交
トルコ統計局は5月5日、同国の4月の消費者物価指数(CPI)を前年同月比69.9%と発表した。また、同統計局が10日に公表した3月の失業者数は、前月から15万3000人増の389万4000人、失業率は11.5%(男性10.3%、女性13.9%)に上る。
エルドアン大統領は、こうした厳しい国内の経済状況を打開すべく、近隣諸国との関係見直しに動いている。経済的成果に結びついている例としては、UAE、サウジ、そしてイスラエルとの関係改善が挙げられる。
こうした二国間での経済外交とは別に、トルコは、4月にロシア・米国間の人質交換を成功させたことで、情報機関の調整能力、機密対話能力の高さを国際社会に示した。
さらに、ウクライナ関係では、ロシア軍の包囲下にあるマリウポリ市からタタール人(トルコ系)居住者の避難を実現させている。
以上のような外交で実績を挙げているエルドアン大統領は、5月30日、プーチン大統領、ゼレンスキー大統領と電話会談を行い、以下の提案をしている。
- イスタンブールでの国連を交えた和平協議の開催
- ロシア・ウクライナの合意のもとで「監視メカニズム」をつくり、
両国産の農産物や肥料を黒海から輸出する
この提案の農産物と肥料の輸出について、プーチン大統領は米欧の経済制裁解除を交渉条件としつつも、トルコとの協力の用意があると表明し、6月8日にラブロフ外相がトルコを訪問して、この件について議論すると報じられている。
さらに、6月2日、ロシアのインタファクス通信が、ロシア国防省は「人道回廊」を通じてウクライナ産穀物を積載した船舶が黒海に面した港から出向できるようにし、その航行の安全を保障する用意がある旨述べたと報じている。
生産量が世界の3分の2を占めるロシアとウクライナをあわせた小麦、大麦の輸出が滞っているだけでなく、トウモロコシや大豆などの家畜飼料の輸出量も減少している。
両国の農産品や肥料の世界市場への供給が回復しない限り、世界各地での食糧危機は続く。ロシアとウクライナの双方にパイプを持つエルドアン大統領の外交が、今回も世界の注目を浴びている。
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
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(この記事は 2022年06月03日に書かれたものです)
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