米国景気のリセッション入りはあるか
実質金利動向に注目すべし
FRBによる2回目の利上げとQT(バランスシート縮小)開始が近づく中で、米国の1-3月実質GDP成長率(速報値)が発表された。
前期比年率▼1.4%(昨年10-12月=+6.9%)と2020年以来のマイナス成長。
さて、5月4日のFOMCを直前に控えたFRBとして、これをどう捉えるか。
発表後、バイデン大統領は、
「テクニカルな要因にすぎない。雇用や個人消費、投資は全て堅調を維持している。勤労者世帯を原動力とする米経済は、歴史的な試練に直面しているにもかかわらず、力強い状況が続いている。米国は世界中に広がる新型コロナウィルス感染やウクライナ戦争、世界的なインフレの試練に強い立ち位置で取り組んでいる」
と表明した。
確かにGDPの7割以上を占める個人消費は堅調(後述する)で、純輸出と在庫を除いた実質国内最終需要は前期比年率+2.6%と昨年10-12月の+2.4%を上回っている。
だが一方で、この四半期GDP(前期比年率)が2期連続のマイナスを記録すると、
「リセッション(景気後退)入り」の烙印となりFRBが、どこまで開き直りの金融引き締めを続けられるかが問われることになる。
そこで注目されるのが実質金利と潜在成長率の関係である。
米国の2000年代初めのITバブル崩壊による景気後退局面(2007年12月~2009年6月)では、その直前に実質金利(10年国債利回り-10年期待インフレ率)が潜在成長率(足下での理論的成長率)を上回った。
景気後退が起きるのは「実質金利>潜在成長率」となるケースが一般的だ。
もっとも、景気後退はこれ以外の要因でも生じることも事実だ。
2020年の景気後退(リセッション)局面(2020年2月~4月)は、実質金利は低位に止まっていたにも拘わらず、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う経済活動の停滞という外的ショックによってもたらされた。
また、2015年12月から始まったFRBの利上げは景気減速をもたらしたが、リセッションの原因とは言い難い。ただ、とにかく米国の景気拡大局面では、間違いなく実質金利が潜在成長率を下回って推移している。
FRBの政策目標は、その時点での潜在成長率を前提に、実質金利に影響を与えることと言っていい。
しかし、実際にFRBがコントロールできるのは短期金利であって、長期金利への影響は(国債買い入れ額の増減である程度は可能だが)限定的である。
また、実質金利を決めるもう一つの要素である期待インフレ率は市場が決めるので、実質長期金利のコントロールは容易ではない。
ただ、米国では、長期期待インフレ率は2%近辺で比較的安定的に推移している。このことがFRBの金融政策による景気と物価のコントロールを容易にしていると言えよう。
足下の実質金利と潜在成長率との関係をみると、実質金利が上昇傾向を辿り2020年初め以来のプラスとなったが、依然として2.0%程度とみられる(米国議会予算局試算)潜在成長率を大きく下回っている。
こうした状況下では、イールドカーブ(利回り曲線)の形状がフラットもしくは、逆イールドになっていてもリセッションのシグナルとは言えない(例えば2年債利回りが10年債利回りよりも高い状況)。
イールドカーブの形状は、基本的に市場の金利見通し(あるいはその背景となる景気見通し)を反映するもので、参考にする必要はあるが、景気の予測性能が高いとは必ずしも言えない。
実際、4月1日と4日に2年債と10年債利回りの逆イールドが発生しても、現在は20bp(0.2%)の順イールドに戻している。もっとも、実はFF金利と2年債、あるいは10年祭との金利差の方が重要な指標かもしれない。
直近の2020年を除く3回のりセッション局面の直前では、いずれもFF金利が2年、10年国債金利を上回っている。
これに対し、1994年~95年初にかけての利上げ(3.0%→6.0%)と、1997年の利上げ(5.25%→5.5%)では、FF金利が2年・10年国債金利を上回ることはなく、リセッションには至らなかった。
1990年代の10年に及ぶ長期間の景気回復局面に終止符が打たれたのは、1999年11月に始まる利上げで、FF金利が最終的に6.5%まで引き上げられ、2年債金利と10年債金利の両金利を上回った後の2001年3月であった。
つまり、FF金利(政策金利=現在0.25~0.5%)をどこまで引き上げたときに2年債と、10年債の両金利を上回るのかを如何に推測し、見定めることができるかがリセションを回避するFRBなのか、それとも、リセッションを覚悟の上で、それによってインフレ抑制を実現するFRBなのかを知る術になるかもしれない。
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(この記事は 2022年5月1日に書かれたものです)
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