米国経済予測2つの視点
★★★上級者向け記事
低い労働参加率の解釈
米国1月の雇用統計が統計の年次改訂(人口推計、季節調整)によって連続性が失われた特殊要因によるデータだったが、とにかく市場が一段とタカ派に傾いたことは間違いない。
そのことは後述するとして、米国の労働参加率(1月=62.2%と前月比+0.3%、15歳~64歳の労働人口に占める就業者と求職者の割合い)について是非とも記しておかねばなるまい。
パンデミック前(2020年2月まで)の63%台がパンデミック後は一旦60%ギリギリまで低下したあと61%台までしか戻らず、この1月に推計値ながら、やっと62%台になったにすぎない。
一体、これは何を意味するのか。OECD(経済協力開発機構)によると、2019年10-12月期から2021年10-12月期にかけて、労働参加率は米国で0.7ポイント低下した一方、日本とカナダでは上昇した。
ユーロ圏の労働参加率も、入手可能な直近データの21年7-9月期には、新型コロナウィルス感染拡大前の水準を大きく上回った。
米国の労働人口が減少したのは、多くが仕事を引退したことによるが、25~54歳の参加率も他国より低下していることがわかる。この相違を探ることで、もう一つの疑問に答えが見つかるかもしれない。その疑問とはなぜ米国のインフレ率が他国より高いのか、である。
それは一見したところ、労働力を含めた、より強い需要と一段と制約の掛かった供給の組み合わせのように思える。相違の原因の一つとして、コロナ初期の労働者支援を巡るアプローチの違いがある。
欧州諸国の政府は歴史的に、不況時に労働者の雇用を維持しようとする。日本企業は長い間、従業員数の維持を優先してきた。
一方、米国はレイオフされた労働者を直接支援し、新しい仕事や新しい産業への移行を促してきた(これが生産性の向上につながり長期的な賃金上昇トレンドとなっている)。
コロナのパンデミック下では、欧州と日本の企業は従業員を解雇せずに一時帰休させ、政府が一時帰休者の給与を保護していた。
米国では、従業員の雇用を維持する企業に対して免責的な融資を行う「給与保護プログラム(PPP)」という独自の制度があったが、その効果は比較的小さかった。連邦政府の支援のほとんどは、レイオフされた数百万人の労働者に対して「失業保険手当の上乗せ」という形で届けられた。
その結果、米国では欧州よりも雇用者と被雇用者のつながりが断たれる可能性が高まった。BofAの日本経済担当トップは、「こうしたつながりの回復には長い時間がかかる」と指摘する。「通常は需要が徐々に回復するので、これは大きな問題とならない。だがコロナ感染は異なる類いの衝撃となった。需要が超高速で回復したためだ」と言う。
つまり、米企業が再び人員を増やそうとする頃には、多くの元従業員が既に次の仕事に就いていた(高賃金と労働環境の良さ)か、労働市場から去っていた。
しかし、賃金補助の違いだけでは、米国の労働参加率がカナダ(米国の隣国)より低い理由は説明できない。カナダが導入した補助制度は米国のものと似ており、取り立てて効果的ではなかった。
それには新型コロナが絡んでいるのかもしれない。コロナの累積感染者数と死亡者数は、人口1人当たりでみるとカナダより米国の方が、約3倍も多く、働く意欲と能力に影響を与えているのはほぼ間違いない。
米国の月次労働力調査によると、病気を理由に欠勤した人の数は昨年、2019年に比べて平均50%増加した。同時期のカナダの調査では、病気や障害を理由に1週間フルに欠勤した労働者が16%増え、1週間の一部を欠勤する労働者は13%減少した。
日本のコロナ禍はそれよりさらに軽微で、人口1人当たりの感染者数は米国の10%、死亡者数は5%程度に相当する。昨年に健康上の理由で労働力から脱落した日本人労働者の数は、実のところ2019年より少なかったのである。
労働市場の動向を一国のコロナ禍の分析と結びつけることは、他の多くの要因も作用し、データを厳密に比較できない中では厄介である。
米国における所得と富の増加は、コロナに感染するのではと不安に感じ、あるいは仕事に不満を持つ米国人にとって、早期退職や休暇取得をより容易にした可能性がある。
それでも、労働参加率の低下は、米国が多くの点で外れ値であることを説明するのに役立つ。2020年半ば以降、旺盛な需要に支えられて景気が急拡大(急回復の途と言うべきか)したが、その需要に応えようとする企業は慢性的な人手不足に陥っている。
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(この記事は 2022年2月9日に書かれたものです)