FRBは米国経済をオーバー・キルするか
今、世界のエコノミスト、ジャーナリストのトップメニューは、FRBの金融引き締め政策動向とウクライナを巡るロシアVS米欧の行方に絞られていると言ってよい。当リポートでは「FRBの金融引き締め」テーマについて記したい。
市場の目は、米国のQE(量的緩和)終了から利上げやバランスシートの縮小(QT)に向いている。雇用が回復した一方、物価上昇ペースが看過できない速さになったためだ。
しかし、金融引き締めは米国内外の景気を冷やし、投資資金の動きを一変させる。感染拡大後に拡大した世界経済の歪みをさらに大きくする恐れもある…
金融引き締めへの急ハンドル
今年の経済を語る上で、米国の金融引き締めが中軸になるのは必須。
QEの縮小完了が3月に前倒しされ、同時に利上げも実施されると市場は100%織り込んでいる。さらに年後半にかけてFRBのQTも視野に入れている。それだけFRBは足元の物価上昇の加速を見過ごせないということだ。
しかし、忘れてはいけないのは、金融引き締めが景気を悪くするということだ。
2021年11月のFOMCでは、国債月800億ドル、MBS(住宅ローン担保証券)月400億ドルの購入額をそれぞれ毎月100億ドル、50億ドルずつ削減し、約8ヵ月かけて2022年6月にQEを終了する計画を立てた。
12月には2022年1月から購入額の削減額をそれぞれ200億ドル、100億ドルに倍増し、QEの縮小を3ヵ月前倒しして22年3月に完了する計画に改められた。
また、それとともにFOMCメンバーは21年9月時点の経済見通し(中央値)で、22年の利上げ回数を1回と見込んでいたものの、12月時点では3回の利上げへと上方修正した。
9月時点では、金利据え置きを予想するメンバーが半数近くいたにもかかわらず、12月時点では3回、先月のFOMCでは3~4回の利上げ、そして足下ではメンバーの何人かは、「5回もしくは毎回(7回)でも、おかしくない」とする向きも出てきた。
さらに12月のFOMCから、QTに議論が進み始めたことも明らかになった。パウエルFRB議長も1月11日の議会公聴会証言で、「年内利上げを実施し、年後半にもQT実施を開始することが適切になりうる」との見通しを示した。
FRB理事らも、それ以降、QE縮小(テーパリング)と、QTというムードを市場に織り込ませる狙いでさかんに発言を重ねている。
2015年~18年の金融引き締め局面に比べてペースが早いという前提に立っているだけに、市場が円滑に対応できるように配慮しているのであろう。
その意味からすれば1月のFOMCの内容は、サプライズにならずに済んだと言えよう。
雇用と物価の注目点
今後の米国の金融政策を考えるうえで、雇用回復と物価上昇が継続するかが重要である。まず、雇用については回復がどこまで続くのかが焦点の1つだ。
パンデミックで失われた雇用のうち、1月時点で回復していないのは約290万人で、コロナ禍を機に引退した人を差し引くと、ほぼ完全雇用に戻ったといえる。
求人件数も6月以降6ヵ月連続で約1000万件と歴史的な高水準になっている。ただし、雇用が労働需要の実態以上に増加している一面もあるだろう。
ベージュブック(FRB地区連銀経済報告)1月分によると、パートタイム労働者が増加しつつある。企業からみると、1日の営業・提案を維持するために、より多くの従業員が必要になる。
また、1日当たりの新規感染者数が100万人超となったことで、感染や濃厚接触によって、自宅待機になっている人が多く、企業が予め求人を多めに出している可能性もある。金融引き締めによって、景気が減速すれば、それとともに労働需要も減少する。
足元の賃金上昇も、一時金やその他の手当などが主であり、見た目の上昇に比べて基本給ベースが必ずしも上昇しているわけではない。
こうしたことを踏まえると、感染拡大後に急回復してきた個人消費にブレーキがかかることも想定される。それは必然的に雇用回復の鈍化や悪化につながる恐れがある。
また、PCE(個人消費支出)デフレータの内訳をみると、エネルギー価格は前年の反動もあって、2021年2月からプラスに転じた。つまり、2022年にはそのベース効果が剥落する。
足元で価格上昇が目立つのは、食料品やエネルギー、自動車、住居費である。供給網の問題が解消に向かうにつれて、これらの物価上昇圧力は低下すると考えられる。
もちろん、物価上昇がその他の財に広がる動きもみられる。しかし、2022年以降も物価上昇の加速を維持するためには、2021年のようなエネルギー価格の上昇や賃金上昇など持続的な押上げ圧力が必要となる。
足元では、生産者物価指数が前年比で減速するなど、物価上昇ペースが減速する兆しがみえていることもあり、今後の伸び率の鈍化が予想される。
ただし、減速ペースと物価上昇率が落ち着く水準は不透明感が強く、現段階ではFRBでも予測が定まっていない。
米国経済は果たして盤石か
では先行きの米国経済動向は、どうなるのか。足元を見てみると2021年第4四半期(Q4)の実質GDP成長率は前期比年率+6.9%となった。
2020年Q2のマイナス成長以降、6四半期連続でプラス成長を維持しているものの、内訳をみると必ずしも力強いとはいえない。
在庫純増の寄与度が4.9ポイント(つまり、これが無ければGDPは+6.9%ではなく+2.0%になる)あり、下駄を履いただけの実態である。
2021年Q3の実質GDP成長率の+2.3%から在庫純増の寄与度(2.2ポイント)を除くと、これも+0.1%成長にすぎなかったということになる。
供給網の問題や自動車減産などから在庫を回復する動きがあり、個人消費などの内需は経済成長率の見た目ほど強かったわけではない。
とは言え、米国経済が感染再拡大のダメージを負いながらも、緩やかに拡大していることを否定する状況にはない。
注目されるのは、個人消費の動向だ。
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(この記事は 2022年2月7日に書かれたものです)