北朝鮮 突然ミサイル連射の理由
★★★上級者向け記事
大慶事年を迎えた国威発揚の狙い
年明けとともに北朝鮮によるミサイル試射の連発が目立っている。
北朝鮮は1月5、11日にミサイル試射を行いそれが「極超音速ミサイル」であると発表した。12日付「労働新聞」は、金正恩総書記が11日の試射を参観したことを写真とともに伝えた。
北朝鮮は15、17日にもそれぞれ2発ずつミサイルを発射し、日本をはじめとする国際社会に軍事的脅威を与えている。
金総書記は「朝鮮労働党第8回大会が提示した国防力発展5カ年計画の中核5大課業のうち、最も重要な戦略的意義を持つ極超音速兵器開発部門で大成功を収めたミサイル研究部門の科学者、技術者、活動家と当該の党組織の実践的成果を高く評価」したという。
そして、「国の戦略的な軍事力を質量共に持続的に強化し、わが軍隊の現代柱を向上させるための闘いにいっそう拍車をかけなければならない」と述べた。
国防発展5カ年計画とは、2021年9月のミサイル試射時に「国防科学発展及び、兵器システム開発5カ年計画」として言及され、その存在が明らかになったものである。
2021年1月の第8回党大会時に提示されたため、今年から5カ年計画は2年目に入っており、金総書記からすれば新年の試射「大成功」で幸先良いスタートを切ったことになる。
この5カ年計画の「中核5大課業」とは、以下のことであると明らかになっている。
①超大型核弾頭の生産
②1万5000キロ射程圏内の任意の戦略的対象を正確に打撃、
掃滅する核先制及び、報復打撃能力の高度化
③極超音速滑空飛行戦闘部の開発導入
④水中及び地上固体エンジン大陸間弾道ロケットの開発
⑤核潜水艦と水中発射戦略武器の保有
11日の試射は興味深いことに、「極超音速武器体系の全般的な技術特性を最終的に確証する目的」で行われたと北朝鮮は発表した。
だとすると、5大課業のうち③はひとまず達成されたことになるが、それは同時に、今後は残りの4つに力を入れていくことを意味している。
北朝鮮は2018年6月の米朝首脳会談を契機に、核実験と長距離大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を実施しない状況(モラトリアム)を続けてきた。
しかし、国防発展5カ年計画の存在は、そのモラトリアムが破られる可能性を示唆している。
第8回党大会後に進められているもう1つの重要な計画が「国家経済発展5カ年計画」である。
2016年5月の第7回党大会で決定された国家経済発展5カ年戦略が、事実上の失敗に終わった反省を踏まえて策定された新たな計画であるが、北朝鮮の報道等を総合すると、厳しい経済状況は変わっていない。
それでも、昨年末(21年12月)の党中央委員会第8期第4回総会では、困難な中でも成果はあったと評価を下しつつ、2022年の一層の奮起を促している。
第8期第4回総会の様子を伝える1月1日は「労働新聞」からうかがえるのは、北朝鮮が2022年も「内向き」志向なことである。
そうならざるを得ないのは、第一にコロナ防疫対策に引き続き集中する必要があり、第二に不振が続く経済で今年こそは成果が求められているからである。特に、昨年来、金総書記は食糧と農業問題の重要性を繰り返し提起している。
加えて第三に、2022年は金日成生誕110周年、金正日生誕80周年の記念すべき節目の年ということで「革命的大慶事の年に輝かす」ことが北朝鮮にとっては至上命題となっている点だ。
したがって、新年早々からミサイル発射を繰り返すのは、一義的には国内政治、統治の観点からの行動であると理解した方がよい。経済的困難が続く中、金総書記にとって誇れる成果は国防力の強化である。
第8期第4回総会では、「日ごとに不安定になっている朝鮮半島の軍事的環境と、国際情勢の流れは、国家防衛力の強化を片時も緩めることなく、いっそう力強く推し進めることを求めている」ことも確認された。
米・韓、中国の動向も見定める
一方、対外関係については、金総書記が「多事にわたり変化の多い国際政治情勢と、周辺環境に対処して北南関係と対外活動部門で堅持すべき原則的問題と一連の戦術的方向を提示した」ことのみが紹介され、米国や韓国に対するメッセージは示されなかった。
3月の韓国大統領選や11月の米国中間選挙の向けた米韓両国内の政治情勢を見ながらの対応となるしかあるまい。こうした情勢認識も北朝鮮の内向きを促している。
但し、内向き志向は完全なひきこもりを意味するわけではない。2021年6月の党中央委員会第8期3回総会における金総書記の「対話にも対決にも」備えるべきとの言葉は、依然として有効なはずである。
事実、1月15日の2発のミサイル発射は、バイデン政権による対北朝鮮制裁発表(1月12日)への反発であることを北朝鮮の発表は滲ませた。
一貫して対話を求めているとの立場をとってきたバイデン政権が今回制裁に踏み切ったことは、米朝対話への道をさらに険しいものにしたと言える。
そうであるからこそ、北朝鮮の立場からすれば、今は一層、ミサイル試射などを繰り返して国防力を強化する好機なのかもしれない。
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(この記事は 2022年1月23日に書かれたものです)