弱体バイデンと日米同盟の変貌
★★★上級者向け記事
2正面戦略を米国に強いるロシアの罠
バイデン政権の対外戦略にとって最大の課題が、対中政策であることに疑問の余地はないだろう。
バイデン大統領は昨年11月6日に習近平主席とオンライン会議を持ち、新疆ウィグル自治区や香港での人権問題と台湾海峡の安定について、中国の攻撃的な姿勢をけん制すると同時に、米中の対立による不測の紛争を招かないための「ガードレール」を設置するための対話を行った。
その後、世界の関心はウクライナ国境に軍を展開して、圧力をかけるロシアに向けられることになった。
バイデン政権は、ウクライナを回避するドイツ・ロシア間のガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」のロシアの事業会社への制裁を解除するなどの一連のロシアへの宥和的な姿勢を見せており、米国内の保守派からは、それが今回のロシアの強硬姿勢を呼んだと批判されている。
米中オンライン会議でのリスク回避的な姿勢も、プーチン大統領の目には弱腰と映り、ロシアの存在感を高める機会だというシグナルを送ったに違いあるまい。
バイデン大統領は、プーチン大統領と12月7日にオンライン会議を持ったが、1ヵ月も空けずに12月31日にも電話会談を行い、ウクライナへの軍事侵攻の意図をけん制した。
実際のところ、中国と海で隔てられた台湾侵攻は、地理・軍事上の制約があり、直近の1~2年の間に起こる可能性は低いと見られているが、ロシアのウクライナ侵攻については、すでにロシアがウクライナ内戦に介入し、国境が地続きで地理・軍事上の制約はないため、その蓋然性は高いと見られている。
昨年11月24日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙で著名な歴史家は、「バイデン氏をアジアから遠ざける中露の深謀」を寄稿して、中国とロシア、イランは、明確に国際状況を理解し、バイデン氏が率いる米国の衰退を望み、大統領の目をアジアにとどまらせないためにできることをやっている、と警告を送っている。
イランの強硬派は、JCPOA(イラン核合意)への復帰に向かって歩みを遅くして、ロシアと中国からの支援を得て、中東であらゆる弱みを利用し、あらゆる境界線を試そうとしている。
ロシアは、米国が中国に集中できないようにベラルーシを支援し、ウクライナに対して戦争をも辞さない姿勢を示し、欧州の電力供給をめぐって強まる支配力を見せつけている、と指摘している。
この著名歴史家が示すような構図で考えれば、2022年のバイデン外交の波乱要因は、中国よりもロシアにあるとはいえ、それはバイデン政権の対中姿勢にも影響する要素と考えることができる。
そもそもバイデン政権にとって、2022年は中間選挙(11月8日)を控え、自らの国内の求心力を維持するためにコロナ対策と経済に集中すべき時期である。
中国も経済成長が停滞し、「ゼロコロナ政策」の難航(遂に開催中心地=北京にオミクロン変異株の感染が確認された。1月16日)などの国内課題を抱え、これまでの集団指導体制から、習近平の独裁に舵を切る三期目の指導者を決定する共産党大会(11月)を控え、バイデン政権同様、内政に集中せざるを得ない。
本来であれば、米中が国内に課題を抱えることで、米中関係は不要な対立を控え、国内政策に集中する方向に向かうために、国際情勢が安定すると考えることもできる。
しかしながら、米国の世界における求心力の低下により、米中の内向き姿勢は、むしろ世界の波乱要因となる可能性のほうが高いと考える見方も多い。
ユーラシア・グループ(著名米国コンサルティング社)が発表した2022年の「トップリスク20」では、「米国は世界の警察官としての役割を果たす意欲はなく、中国は米国にとって代わろうとはしていない」ため、アフガニスタン、アフリカのサヘル地域(サハラ砂漠以南の貧困諸国)、イエメン、ミャンマー、エチオピア、ベネズエラ、ハイチなどでのさらなる混迷が懸念されている。
ロシアの現在のウクライナへの軍事圧力は強いロシアの復活を期待するロシア国民にアピールするプーチン大統領の政治的な思惑であると同時に、米国にとっては対中戦略への集中を妨げる要因ともなっている。
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(この記事は 2022年1月17日に書かれたものです)