日銀金融正常化への危険の道筋
★★★上級者向け記事
日銀の量的緩和修正開始へ
6日の日経紙に「昨年の国債保有が13年ぶりに減少」ということで以下の解説を記している。
=国債購入は物価上昇率2%の目標達成に向けた量的緩和の柱。
日銀は黒田総裁の就任後、政府の新規発行を上回る国債を買ってきたが、保有資産の膨張で日銀の財務リスクが増す懸念がある。2%目標が遠いなか、じわり量的緩和の軌道修正を重ねている。
2021年末の国債保有残高は20年末比14兆円減の521兆円。年間で減るのは08年以来となる。2013年、日銀は「量」の急増を目玉に早期に2%目標を達成すると約束した。
量的緩和の軸は国債購入で、13~16年には残高を60兆~80兆円程度に増やしてきた。銀行や生保など民間金融機関が持つ国債を買い集めて、長期金利を押し下げた。
それでも2%目標は遠く、16年には金融政策の主眼を「量」から「金利」に切り替え、購入量を徐々に減らしてきた。ここ数年は日銀の購入額は新規発行を大きく下回っている。
20年のコロナ禍では、それまで「年間約80兆円を目処」としてきた長期国債の購入の目安もなくした。
多額の財政出動に伴い発行される国債を無制限に買い入れられるようにするというのが表向きの説明。目安をなくすことで購入量を柔軟に減らせる環境をつくるのがもうひとつの狙いだった。
実際、無制限購入方針の表明直後こそ短期国債も含めた購入量は増えたが、21年には再び縮小。21年3月には市場が落ち着いているときにはETF(上場投資信託)の購入を見送る方針に改め、4月以降は急減した。
日銀はいまも「量的・質的金融緩和」と銘打って量を重視する姿勢を崩していない。
黒田総裁は13年に「2年程度を念頭に」2%目標を達成すると意気込んだが、9年近くたっても「相当遠い」(黒田総裁)のが実態だ。国債購入も減り、「量」の緩和は名ばかりとなっている。
ここで日銀が量的緩和の縮小に転じた場合、必然的に日銀が世の中に供給する資金であるマネタリーベースは今年半ばにも前年比で減少に転じる可能性が高まる。
事実上の政策転換ということにつながるが、それでも日銀は転換ではないと、言い切るのだろうか。
今、マスメディアでは「いよいよ物価上昇率2%が見え始めてきた」とし、日銀の利上げスケジュールを探り出しつつある。
確かに直近の消費者物価上昇率は前年比+0.5%、企業間の取引価格の動向を示す企業物価指数は前年比+9%と41年ぶりの上昇率となった。
特に年度変わりの今年4月からは携帯電話料金大幅引き下げのデータ的剥落などから+1%台の物価上昇に向かう可能性が高い。
しかし、賃金がサッパリ上昇しないがゆえ物価上昇は明らかに個人消費を抑制する。その状況下で日銀が利上げモードに移れるはずは毛頭ないが…
自縄自縛に陥った日銀
コロナ禍を含めて、これまでの財政・金融政策運営での米国との大きな違いは、以下通りである。
- 財政出動の際の財源の議論が完全に欠落している。
- アベノミクス(2013年)以来、
日銀は「事実上の財政ファイナンス」で放漫財政を黙認し、
デフレ脱却一本槍(資産膨張)に協力してきた。
そうしたなか、日銀の近年の運用資産利回りは、国債中心に低下の一途をたどっている。
日銀がマイナス金利政策を続けていることからすれば、短期国債の金利もマイナス圏内に沈むのは当然であり、イールド・カーブ・コントロール政策によって10年国債利回りは、ゼロ%近辺に完全に抑え込まれてきた。
その結果として自らの財務運営が傷むのは当然で、いわば“自縄自縛”状態に陥っている。
日銀の資金の内訳は、その圧倒的なウェートが国債で占められているにもかかわらず、保有国債が生み出す収益はジリジリと縮小し続け、足元では事実上、保有ETFの収益頼みになりつつある。
それも、株価が日銀の保有するETFの時価評価上の損益分岐点以上で、推移していることが前提だ。
コロナ禍初期(2020年3月)に見られたように、株価が急落して損益分岐点を下回る事態になれば、日銀の収益構造は崩れてしまう。
株式市場関係者がセオリーの如く伝える「日経平均・TOPIXの下値は限定的だ」との見通しの裏側に「日銀が保有ETFの含み損転落を放置するはずがない」との論理=買い支え必至論がある。
まさに日銀は先進諸国の中で異色の存在といえる。市場原理で成り立っているはずの株式市場で最大のプレイヤーになっているのである。
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(この記事は 2022年1月9日に書かれたものです)