イランの核開発への深まる不信
12月7日、米エネルギー情報局(EIA)は、2022年のブレント原油の平均価格が1バーレル70ドル(前年比0.8%安)になるとの見通しを公表した。また、2022年1~3月の原油価格の平均については、73ドルと予測している。
経済回復による原油需要から、2021年11月の原油価格の平均は81ドルだったが、新型コロナウイルスの「オミクロン型」の拡大で、需要が減少すると分析されているためである。
中東地域で高まるリスク
一方、2022年に原油価格を押し上げる可能性がある供給サイドのリスク要因もある。
まず、ロシアがウクライナに侵攻した場合、天然ガス価格が上昇し、石炭、石油の価格も同調する可能性がある。
また、中東地域では、米軍が12月に戦闘任務を完了したが事実上の駐留(2500人)を続けるイラク、および、大統領選挙・議会選挙が延期になったリビアでの内政の不安定化、イランの核開発にともなうイスラエルの軍事行動というリスクもある。
これらのうち、とりわけウクライナ問題、イラン問題は、国際社会にも大きな影響を与えると考えられる。
ただし、ロシアによるウクライナ侵攻については、ロシアの経済状況、米ロ首脳会談で米国が提示した対ロシア金融制裁などを勘案すると、プーチン大統領が政策決定する蓋然性は低いといえる。
一方、イスラエルによるイランへの軍事行動は、過去、何度も政策立案されており、その都度、米国の支持が得られなかったため実施が回避されてきた。
このため、イスラエルはあからさまな軍事行動の代わりに、イランの核施設へのサイバー攻撃や、核開発科学者の殺害などを行っていると見られている。
しかし現在、イラン核合意の再生を目指し、ウィーンでの核合意合同委員会の協議が再開されているが、そこでのイラン側の妥協はほぼ望めず、イランはウラン濃縮を継続すると見られている。
つまり、イスラエルにとっての脅威はより現実的になっているのである。以下では、このイラン核合意の再生とイスラエル・米国の対イラン政策について検討する。
結論を先に述べれば、米軍の支持が得られなくても、イスラエル単独で安全保障上の措置(イランの核施設や軍事施設への攻撃)をとる蓋然性は高まっているといえる。
そうなると、ペルシャ湾からの原油・天然ガスの供給量が減少し、原油価格が上昇するシナリオの蓋然性が高まる。
イラン核合意再生の行方
ライス大学ベーカー公共政策研究所のフェローのモハマド・アヤトラヒ・タバァー氏は、Foreign Affairs Report (2021年No.12)で、イランが核合意に復帰しても、約束の利益を得られないまま核開発の選択肢を失うことを恐れていると指摘し、イランは自給自足の経済を目指し、重心をアジアや中東に移していると述べている。
つまり、経済制裁解除によって明確な国益を得られなければ、ライシ政権をはじめ保守強硬派が交渉で妥協することはないとの分析である。
では、実際、2021年11月29日にウィーンで再開された核合意合同委員会の協議は、どのような状況にあるのだろうか。
ライシ政権は、ロウハニ前政権が過去に6回の協議を重ねてきた合意内容を、2015年の核合意(JCPOA)と照合した上で、JCPOAと異なる事項を削除し、いくつかの項目を加筆して、制裁解除と核開発に関する2つの文書を作成した。
イランは、その文書を事前に協議関係者に提出し、協議の冒頭、バーゲリー外務次官が、米国の全面的制裁解除の必要性を主張した。
さらに、追加提案として、
①核開発の検証方法と時期
②米国が再度、合意から離脱しないという保証
などの事案をまとめた第3の文書があることをメディアに公表した。
このように、イラン側が協議を振り出しに戻すような強硬的な交渉姿勢を示したことで、12月3日、協議は一時中断し、9日に再開した。
しかし、協議の進展は見られず、再び17日から中断し、ようやく27日に再開することが決まった。
この間、12月21日にイスラエルを訪問した米国のサリバン大統領補佐官(安全保障問題担当)は、ベネット首相らイスラエル政府要人と協議している。
同補佐官は、協議後の記者会見で、「イランの核武装を阻止するには、“外交、抑止、圧力”が最善の方法」と述べながらも、協議に費やす時間は「長くはない」とも語っている。
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部を抜粋した記事です。
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(この記事は 2021年12月24日に書かれたものです)