ミャンマーはこうなっていく
★★★上級者向け記事
ミャンマーの情勢が、ほとんど報道されなくなった。
軍によるクーデターが起きたのは今年2月1日だった。これまで民衆を中心に1300人もの死者が伝えられ、アウンサンスーチー氏は事実上、終身の拘束に処されてしまっている。
一時は「東南アジアで最後に残された発展期待の地」と注目されたミャンマー。日本からも数々の企業が新天地を求めて進出し地域の発展にも協力し始めていたが、クーデター以降は、その後の消息すら報道されていない。
権力を握ったかに見えた国軍も国家として統治する能力を著しく欠いており、蜂起した民衆武装勢力が少数民族の武装勢力と手を結び各地でゲリラ的行動を繰り広げている。
一体、ミャンマーの行くえはどうなるのか。
破綻国家になるのか
独立から一度も国土全域を統治できたことがなく、常に武装勢力を、国内に抱えてきたミャンマーだが、その国内安全保障環境は2021年になって急速に悪化した。
それは間違いないものの、NUG(反国軍の国民統一政府)が実効支配している地域はほぼない。
戦闘といっても、国軍の舞台とPDF(人民防衛軍=反国軍の自主武装組織)とが、正面から対峙することは少なく、多くは国軍の車両や基地に即席の爆弾装置(IEO)で、攻撃を仕掛けたり、あるいは国軍の抵抗勢力鎮圧作戦によって戦闘が勃発したりする“ゲリラ戦”の域を出ない。
加えて、衝突はいずれも村落部がその主たる現場にすぎない。PDFは他にも、国軍系企業がベトナム軍との合弁で経営している通信社マイテルの通信塔に対す破壊活動や、国軍が任命した村長、区長に辞任を迫り、時には加害に及んでいる。
国営紙で報道されることもある違法な武器輸送の摘発では、ライフル200丁以上も含むものもあり、かつてのように弱い装備に頼った市民の抵抗ではない。
短期間とはいえ、少数民族武装勢力から軍事訓練を受けた若者も多く、ゲリラ戦を戦うだけの戦闘能力も有している。
ただし、国軍の装備とは比較にならないため、基本的に不意打ちによって、国軍にダメージを与えるが、統治の妨害をすることがPDFの基本戦術だといってよい。
むろん、NUGやPDFも闇雲に統治を妨害しているわけではない。目的を達成するための戦略があり、その戦略にしたがった戦術だと理解した方がよい。
この肝心の戦略についてNUGは明示していないが、これまで発表された声明などをみる限り、戦闘や混乱を長引かせることで、国軍、警察からの離脱者を増やし、国軍の分断を図っているようにみえる。
確かに、国軍を武力で上回って国家を奪還する革命のシナリオよりも、こちらの方がより現実的ではあろう。
治安機構から大量の離脱者が出たり、部隊がそのまま抵抗勢力に加担するような事態が生じれば、情勢は大きく変わる。だが、これも決して容易なことではない。
今年2月から8月までに約2000人の軍人と警察官が所属する国軍や警察を辞したという。なかにはNUGの武装闘争に参加する者も多くいた。
独立書記の混乱期を除けばこれまで国軍が経験したことがない事態ではあるものの、それでも離脱者の数は、国軍と警察合わせて約40万人といわれる構成員のうちの0.5%程度にすぎない。
しかも、離脱者の多くは下士官と兵士で、将校では佐官級ですら離脱したのはわずかな人数である。
歴史的にみても、ミャンマー軍の分裂を予想することは難しい。
現在の最高司令官は就任から10年を超えて、国軍幹部を掌握している。隣国タイではよくある軍内の派閥形成も、ミャンマー国軍内では昇進の妨げになるものとして抑制されている。
将校・兵士たちの社会的な背景も似通っており、民族構成や宗教は多数派民族であるビルマ人が8割を超え、仏教徒がほぼすべてである。この数字は全人口の構成よりもずっと高い。
兵士たちは家族も含めて駐屯地内や軍用の官舎に住まうことが多く、一般社会から距離がある。
事実、離反した将校のインタビューでは、国軍関係者の多くが、NLDによる選挙不正を信じていて、スーチーやNLDには批判的な関係者が大多数だという。
懸念されているのは、NUGの武装闘争路線への動きが国軍の態度を硬化させ、その統治が長引く事態だ。
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(この記事は 2021年12月19日に書かれたものです)