大統領・FRB・JPモルガンの結束
★★★上級者向け記事
大統領のFRB議長・副議長指名
本稿が掲載される段階では、12月のFOMCが終了し、テーパリング終了の前倒しや、利上げ時期の前倒しが告知されていることと思われるが、それにしても11月のFOMC以降のFRBパウエル体制の「タカ派」へのシフトは劇的に早かった。
確かに、それほどインフレ率が執拗に上昇したことに第一の理由があるのだが、FRBパウエル議長やブレイナード理事といった代表的ハト派の“転向”ぶりは不自然ともいえる。
時系列としては、11月2、3日=FOMC/ 11月22日=バイデン大統領によるFRBパウエル議長の再任とブレイナード理事の副議長昇格への指名/ 11月30日=上院銀行委員会でパウエル議長が、「タカ派」への転進を表明という流れだった。
12月のFOMCは、この流れの集大成ということを意味する。
それとは別に、11月26日、バイデン大統領は「今後指名するFRB理事(空席分)にとってインフレが優先事項になる。ホワイトハウス側はあらゆることについて金融当局(FRB)と協議した」と、発言したことも気になる。
そこで、筆者は11月22日の大統領によるFRB議長再任とブレイナード理事の副議長昇格への指名に注目した。
議長人事に関しては進歩派の民主党上院議員らが、金融規制や気候変動問題への対応の甘さを批判し、パウエル氏の再任に強く反対していた。
大統領は、今後数年間のFRBが取り組むべき最優先事項が気候変動対応であることや、暗号通貨の技術革新や規制の緩いノンバンク金融機関の業務などの、新たな金融リスクに対応すべく、FRBがより積極的な役割を果たすことを、大統領との面談でパウエル氏が強調したと述べて反対派の懸念を和らげようとした。
加えて大統領は、一方では経済が高い不確実性に包まれ、他方では国内政治が党派性を強める中、FRBには安定性と独立性が求められるとし、それがパウエル氏続投を決断した重要な理由であると説明した。
特に独立性に関して大統領は、トランプ前大統領による前例のない政治的干渉に、パウエル氏が動じなかったことや、2018年の上院承認時には圧倒的多数の84条(上院100票中)の賛成を得たこと、また共和党系の経営者団体のみならず米国最大の労働組合組織からも、同氏が尊敬と支持を得ていたことを挙げた。
ブレイナード理事の人事は、銀行監督担当副議長ではなく、より広範な職責を有する副議長への昇格という点で、同氏に対する大統領・民主党からの強い信認と期待が感じられ、将来の議長もしくは財務長官への布石に見える。
同氏はマクロ経済学者であり、リベラルな政策思想を持つ点で、クラリダ現副議長に替わる副議長として資質を有するばかりでなく、オバマ政権時代に築いた国際人脈や国際経済・通貨問題に関する実務から得た知見は、FRB内で随一とされる。
ブレイナード氏のリベラルさは、最大雇用への拘りや、金融規制緩和への一貫した反対などに表れている。
同氏は、金融政策の新たな枠組みの策定において、法律で定められた最大雇用について、「広範かつ包摂的」という新たな概念を加える上で重要な枠割を担ったとされる。
米金融当局がここ数年進めてきた長期流動性規制の緩和に対し、ブレイナード氏は金融システムの不安定化リスクとなり得る変更に断固反対してきた。
同様に、モルガンスタンレーによるとEトレード買収や、トロント・ドミニオン銀行(カナダ)によるチャールズ・シュワブの持ち分比率引き上げに反対するなど、同氏は銀行による合併にも否定的である。
また、他国に比して出遅れているCBOC(中央銀行デジタル通貨)の、開発を急ぐべきだと訴えている。
その背景には、国債経済担当財務次官としての経験からドルの基軸通貨・国際決済通貨としての重要性をFRB内で誰よりも強く感じていることがあるものと推察される。
CBCDに包摂的金融の可能性を評価する点もリベラルなブレイナード氏らしい。FRBの人事はまだ続く。ブレイナード理事の副議長昇格により、クラリダ現副議長は任期である来年1月末をもって退任する。
またクオールズ理事(10月13日まで銀行監督担当副議長)が、2032年1月末の任期を待たず今月末で退任する。
現在でも1名の理事が空席となっており、バイデン大統領が今後合わせて3名の理事を、指名・上院の承認を得ることができれば、FRBはリベラル色が濃く且つインフレ抑制を第一とする体制となる。
長々と大統領による11月22日のFRB議長(再任)と副議長へのブレイナード理事の指名に言及したのは、結局、11月30日のパウエル議長の「タカ派」(インフレ阻止)転向証言が、大統領の意向に沿ったものだったことを立証したからである。
11月FOMCへの影武者有り
米国金融界のトップであるJPモルガンチェースには2015年に設立した社内シンクタンク「JPモルガンチェース・インスティテュート」がある。
総勢数十人のスタッフだけが銀行顧客の貯蓄、支出、借り入れの習慣に関し、どこも手に届かない高いアクセス能力を保有しており、インスティテュートの研究員は、バイデン政権のエコノミストたちと毎月のように会合を持っている。
つまり、政権下のエコノミストたちは、民間最大の金融機関の顧客口座情報の提供を受けることによって、経済の動向推移を定期的にチェックできる。
FRBも同様に、このシンクタンクの情報を利用しているし、2020年秋にはJPモルガンチェースのダイモンCEOがトランプ政権のホワイトハウスに出向き、インスティテュートの結論(景気刺激策の第2弾が必要)を伝えた。
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(この記事は 2021年12月14日に書かれたものです)