ドイツ新政権 苦難のスタート?
松崎美子さんに、解説いただいた内容を記事にしましたのでご覧ください。
12/8時点での解説内容です。
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ドイツ総選挙:連立合意
出典:ドイツ議会
ドイツでは各政党カラーがあり、信号機連立(トラフィットライト連立)と呼びますが、赤色は一番議席数が多い「社会民主党(SPD)」、緑色は環境政党の「緑の党」、黄色は「自由民主党(FDP)」です。
赤(SPD党)と緑(緑の党)が左寄り政党、FDP党が右寄り政党です。
財政均衡を目指すのがFDP党だけなので、財政政策において問題になる可能性があるのがFDP党だと思っています。したがって万が一、FDP党が抜けてしまうと、過半数が割れる為、FDP党が心配の種の1つです。
そして12月8日は、ドイツの議会でSPD党のオラフ・ショルツ氏が首相として承認される見込みです。同日は、メルケル氏の最終日であり、ショルツ新政権発足の初日になる見通しです。ショルツ氏は、前首相メルケル政権のもとで財務相と副首相を兼任していました。よって今回の承認は、必ず承認されると予想している一方、財政面と外交面が一番の注意事項だと思っています。
閣僚メンバー予想
閣僚メンバーは、SPD党からショルツ党首が首相。財政均衡を支持するFDP党リントナー党首が財務大臣、対中強硬派の緑の党 ベアボック党首は、外務大臣に選出されています。
緑の党は2人の党首がおり、一人は女性のベアポック氏で、第2のメルケル氏と呼ばれています。もう一人のトップで、次の首相候補でもあるハーベック氏は一番重要人物だと思います。
ドイツでは、経済環境大臣は「スーパー大臣」と呼ばれていて、財務大臣と同列なほど大事であり、首相になる方が多いと言われています。したがって、経済環境大臣が誰になるのかに注目が集まっていました。
そこで、次の首相候補のハーベック氏をスーパー大臣候補にするために、ベアボック氏が外務大臣になった可能性もあると思っています。そして、3党の党首が主要閣僚のすべてを取ることも予想していました。対中強硬派のベアボック氏と、財政均衡を支持するリントナー氏を配置するのは、果たしてショルツ氏の賭けなのか、非常に興味があります。
外交に関しては、EUが決めてしまう部分がありますので、ベアボック氏がどれだけ言ったところで聞き入れられない可能性はあります。また、ドイツ内で財務大臣の発言は非常に重要です。そしてFDP党は連立に入ると言いつつ、なかなか入らなかった政党です。よって、歯車が狂う場面としては、外交の部分か財務の部分だと思っています。
そして今、中国に対して、EU全体がアメリカ合衆国のバイデン氏に足並を揃えすぎていると思っています。バイデン氏との足並みを揃えすぎる事が良いことなのか等、議論はまだ出てきていませんが、もし議論することになれば面白い展開になると思っています。
例えば、バイデン氏が何らかの理由でいなくなった場合、EUの外交政策は大きく舵取りが変わる可能性があると思っています。今後、対中外交がどのように変わるのか、注目していきたいと思っています。
それ以外の閣僚メンバー
出典:ドイツ議会
上記で述べたように、首相候補、外務相候補、財務相候補、経済相候補の4部門では、全部3党がとりました。それ以外の閣僚メンバーについては、 16人の閣僚ポストのうち、SPD党が7人選出されています。
ここで注目を浴びているのは、保健大臣のローターバッハ氏です。ドイツでも有名な疫学の専門家で、失言が多いことでも有名ですが、ショルツ党首はこの方を迷わず任命しました。そして、内務相(内務大臣)に、過去閣僚経験はありませんが、ショルツ党首が大変評価している、フェーザー氏を任命しました。
フェーザー氏以外は、ほとんどの方がメルケル政権時になにかしらの閣僚経験をしているベテランぞろいです。結果として、画像を見ておわかり頂ける通り、SPD党が主要な部分を取っています。
新政権、苦難のスタート?
出典:ドイツ統計局
ここからは政治ではなく、経済について解説します。
ドイツの11月のインフレ率速報値は、CPI(国内の消費者物価指数)が5.2%、HICP(ユーロ圏消費者物価)が6%です。これには、カラクリがあるということをお伝えしたいと思います。
画像左上をご覧いただくと分かるように、パンデミック対策として、2020年の7月1日から12月31日まで今まで19%であったVAT税(付加価値税)を一時的に16%に下げました。これによって、CPIがマイナスになりました。
CPIは前年対比なので、2021年7月から12月までのインフレ率は、VAT税が16%から19%へ戻ったことを受けて、一時的に上昇しました。
2021年に上に押しあがった分、2022年7月から12月までのインフレ率は、下に押し下がります。結果、2022年7月から12月までのインフレ率は、VAT税が19%に据え置き前提であれば1%程度下がる可能性があります。
つまり今年11月のCPIが5.2%ですので、来年の11月のCPIは、少なくとも5.2%から4.2%に下がる計算になるということです。これを裏付けように、タカ派のバイトマン独連銀総裁でさえ、VAT税の部分が下がることを念頭に置き、2022年の後半は、インフレ率は下がると発言していました。
ところが 「2022年のCPIは下がる」というシナリオに大きな番狂わせが起きそうなのです。ショルツ新政権は、最低賃金を9.60ユーロから12ユーロに引き上げる案を出しました。9.60ユーロから12ユーロに引き上げると、25%の賃金引き上げになります。
これがインフレ率にどれくらいの上乗せ影響がでるのか分かりませんが、この賃上げが議会で可決されれば、来年のドイツCPIは思ったほど下がらないというシナリオにもなりそうで、欧州中銀の金融政策動向にも影響を与えるかもしれません。