ユーロ通貨1.1ドル割れのリスク
★★★上級者向け記事
オミクロン株の脅威
11月26日の世界的「オミクロン・ショック」によって、世界経済の回復基調が腰折れとなる可能性が出てきた。
「各国・地域の水際対策さえしっかりしていればパンデミックの再来とはなるまい」との見方を信じたいが、デルタ株出現以降のこれまでの推移をみる限り、そうした楽観論の神通力は通用しないのではないか。
とにかく、少なくとも25日までの各国・機関による経済見通しは27日以降、見直し必至の状況になってしまったことは否めない。その視点からECBのスタンスも大きく変えざるを得なくなっていくと思われる。
ユーロ圏経済は、コロナ禍による行動制限緩和で4-6月、7-9月期に急回復。
10-12月期はいよいよコロナ前のGDP水準が視野に入っているのが現状だ。
世界金融危機後は、危機前の水準回復までにおよそ7年、危機以前の成長のトレンドに回復することはできなかった。
しかし、コロナ禍からの復興では、22年中には危機以前のGDPトレンド復帰も、見込まれる状況だった。
ところがその一方でユーロ圏の回復持続に3つのリスクがあることも明白であり、今後このリスクがオミクロンの動向でどう変化していくのかが重要なカギを握ることになる。
オミクロンは27日現在、英国を含め欧州7ヵ国で確認されている。
通貨ユーロは24日に1ユーロ=1.1186ドルと1年5ヵ月ぶりの安値をつけたが、26日には、ドル安によって1.1333ドルまで戻してはいるがリスクは下値方向にあるとしか言いようがない。
3つのリスクの筆頭には当然、新型コロナ感染拡大がランクされる。
ワクチン接種の普及もあり、秋口までは感染者数に対して重症者数、死亡者数が抑制されてきたが、冬に近づくに連れて感染拡大ペースが加速。
足元では1日当たりの感染者数が20万人を上回り(米国を上回る)、死亡者数の増加の勢いも増している。足下の欧州における感染拡大は国・地域毎のバラツキが大きく、ワクチン接種率が低い国で多い。
コロナ第一波で深刻な感染被害が見られたイタリアやスペインなど南欧では感染が抑えられているが、中東欧(ドイツ及び周辺国)が新たな波の感染の中心地となっている。
新型コロナの感染拡大の経済への打撃は、20年春の第一波に比べれば現段階
(オミクロン株のパンデミックは定かでない)では遥かに小さく、20年秋から21年春と比べても小さいと見られる。
各国が導入する対策は、3回目のワクチン接種(ブースター接種)や、ワクチン未接種者への行動制限や証明書の活用による接種のインセンティブ強化、さらにコロナ治療薬の緊急使用など、経済活動に打撃が大きく、国民への負担も大きい行動制限や、国内の自由移動の制限を極力回避する方法が模索されているからだ。
それでも、医療体制が逼迫した場合には制限強化に動かざるを得ず、回復の勢いを鈍らせる要因になる。
感染状況が深刻な中東欧諸国と国境を接するオーストリアが西側諸国として、初めてワクチン義務化(22年2月から)の方針を打ち出すとともに、11月22日から最大20日間のロックダウンに踏み切っている。
サプライチェーン混乱とインフレ上振れ
世界的な供給網は、コンテナの不足や港の混雑、ドライバー不足など、輸送のボトルネックの発生、原材料、中間財の供給不足、価格高騰などの混乱が広がっている。
供給制約の影響は、コロナ禍から一早く立ち直った製造業に大きい。10月のユーロ圏製造業購買担当者指数(PMI)では納期の遅延など、供給制約の深刻化が確認されている。
欧州委員会の企業調査でも、「原材料や設備が生産の制約要因になっている」と、答えた割合が53%に達し、異例の状況といえる。セクター毎、国毎に異なるが、国内で影響が伝播するリスクには注意が必要だ。
欧州委員会も、11月11日に公表した経済見通しで、域内の産業連関を通じて「国内で影響が伝播し、増幅される」と懸念を示し、「供給が需要に適応するために、必要な時間はセクターによって異なり、解消のスピードは不透明」と慎重な判断を示した。
供給網(サプライチェーン)には、経済安全保障や気候、人権などを理由とする見直し圧力も加わっており、遅延やコスト上昇を招きかねない。
そして、現在、先進諸国で最大の頭痛ネタは「長期化するインフレの上振れ」である。
ユーロ圏のCPI(10月)は前年同月比4.1%とECBの中期的目標2%を大きく超え目標からの乖離が続いている。とりわけエネルギー価格上昇の寄与度が2.21%と物価上昇の半分以上を占めている。
つまりコロナ禍からの回復過程で需要が供給を超えるペースで増大し、世界的に化石燃料が高騰していることによって物価上昇に弾みがついているのである。
但し、供給面の要因は複合的で、欧州の場合、風力発電の発電量低下、石炭よりもCO2排出量の少ない天然ガス需要の増大(しかし価格が一時、年初比10倍以上も上昇)、炭素価格の上昇など、気候要因や気候危機対策の進展も影響している。
エネルギー価格以外にも物価押し上げ要因はある。特殊要因としては、ドイツが20年下半期に実施したVAT(付加価値税)減税の反動がある。
・・・・・
続きは「イーグルフライ」の掲示板でお読みいただけます。
(この記事は 2021年11月29日に書かれたものです)