オミクロン感染拡大警戒で原油急落?
大橋ひろこさんに、解説いただいた内容を記事にしましたのでご覧ください。
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南アフリカの感染状況と死者数推移
オミクロン株がどれほどの脅威かは、よく分かっていませんが、南アフリカの感染者数と死者数をみると、まだそれほどの数ではありません。感染力は強くてもそれほど重症化しないというのであれば、ウィズコロナ的に対処できるのではという気もします。
しかし、まだ誰も確証を持って言えないので、マーケットが過敏に反応していると思っています。
オミクロン株の感染が世界中に広がっていて、今日は日本でも初めてのオミクロン株の感染者がナミビアから入国してきて隔離中ということです。
街中に伝播しているかは分からないのですが、この飛行機に同乗していた感染の疑いがある人達、搭乗者全員が対象となっていて検査する方向です。
通常であれば、当該席と前後2列の合計5列の搭乗者を調べますが、今回はその飛行機に乗っていた全員が対象のようです。
小池都知事は、飛行機に乗っていた人が都内にも40人いて、感染力が強ければその40人が街に出て広げる可能性があるので、皆さん調査に協力してくださいという呼びかけがなされています。
飛行機に乗って移動すると世界に広がるということで、厳格な渡航制限が取られるようになると原油市場にとっては脅威となります。
南アフリカからの入国規制、渡航制限拡大懸念で原油急落
WTI原油のチャートを見ると11月26日は1日で10ドル、14%も下がりました。ボラティリティが大きいです。
今日、11月30日の段階で再び安値を割り込んで、67ドルぐらいまで下がりました。80ドル半ばまで高値があったものが、急に60ドル台まで下がったので大丈夫かなというような状況です。
今日の下落もまた東京時間でしたが、モデルナのCEOが、従来のワクチンの効果が薄い可能性があると仰ったのを嫌気した感じがあります。
新たなワクチンが開発され、供給が開始されるまでに100日ぐらいかかると言われていますが、その間もし経済が封鎖されたら、この影響は甚大だとマーケットが怯えています。
ただ同時にJPモルガンは、2023年にブレントオイルは150ドルになる可能性があると予想を出しています。
JPモルガンが150ドルまで行く可能性があると言っているのは、SDGsや環境への対処で化石燃料分野への投資が不足しているという事も一つの要因としてあるのかもしれません。2023年の予想とはいえ、見方が強弱拮抗しているというのが現状です。
もう少し長い期間の週足チャートです。週足でトレンドラインを引いていますが、この上昇トレンドを割り込むと、割と大きな下落になる可能性があるので注意しておいてください。
次の大きな材料は、12月2日にあるOPECプラスの会合で、ここでOPECがどう動くのかに注目です。
現状では日量40万バレルの減産枠の縮小を毎月行っています。協調で減産していたものを、少しずつ増産することをOPECプラスは行っていますが、原油価格が下がってくるとそれを少し止める可能性があるのではないのかと、市場は期待しています。
止めなければ弱い材料となりますので、通常通りの計画でまた増産していくとなると、下を割り込んでくるリスクもあるので12月2日の会合には注目が集まっています。
産油国は生産調整できるので、原油価格が暴落したらまた減産すればよいという話もありますが、OPECが価格主導権を取り戻したかのように見えて、実はアメリカのシェールも息を吹き返し始めているという話が出てきています。
息を吹き返した米シェール生産
左上のグラフがガス、石油業界の社債の発行額ですが、発行額が急増していて2020年には過去最高の社債が発行されています。シェール企業にお金が回ってしまっているのです。
これはなぜかというと、FRB( 連邦準備制度理事会 )が昨年コロナ禍で大規模な金融緩和を行って経済をなんとか支えようとした時に、社債の買い入れもやりますよと言っているのです。
そこで、シェール企業やガス企業の社債が救われたのです。Fed( 連邦準備制度 )が買うなら安心という事で、元々ジャンク債であるシェール企業の社債もどんどん自信を持って買っていきました。
原油価格の下落とSDGsという世の中で、シェール企業にはお金が回ってこなくて資金調達に困っていましたが、社債をどんどん発行すると、買ってくれる投資家がいてお金が入ってくるので、シェール企業は今かなり息を吹き返し始めています。
アメリカ最大のシェールオイルの油井があるパーミアンの生産量は、12月に過去最高となる見通しだそうです。アメリカのシェール層はパーミアンだけではなく色々あり、他はそうでもないようですが、パーミアンに限って言うと過去最高に生産量が伸びています。
下の段のグラフがパーミアンの原油と天然ガスの生産量ですが、これも過去最高に切りあがってきています。
化石燃料に代表されるBP(ブリティッシュ・ペトロリアム)、シェブロン、エクソンモービルという大きな企業が、来年シェールへの投資を拡大し増産する計画を出しています。
例えば機関投資家や年金、銀行は、ルール上こういった分野には投資できませんが、ファミリーオフィスやヘッジファンドは儲かると思ったらどこに投資しても文句を言われないので、原油高や天然ガス不足に注目して、今短期的にお金が集まってきているという状況です。
再生可能エネルギーを進めやすくなるので、原油高を容認しているのではないかという見方もありますが、ガソリン価格の高騰はバイデン氏の支持率に直結していて、支持率が下がっています。
シェール企業を悪玉にして投資マネーが回ってこない時代がやってくると、ますますいびつになって原油価格が上がるという懸念もあります。しかし今は逆に振れて、シェール企業に資金が集まってアメリカの原油生産量も増えてきたところです。
産油国であるOPECやアメリカが力を取り戻せば、どちらも原油を生産できるので、また競争が始まり原油価格があまり上がらなくなる可能性もあるということを忘れないでください。
CRBインデックスは調整入りか
CRBインデックスを見てみると、5回目のスーパーサイクルが始まったのではないかと、モルガンのアナリストが提唱して広がっています。今月はかなり大きな陰線がつきそうなので、一旦ピークアウトした可能性もあると思っています。
昨年の4月にコロナショックでCRBインデックスはものすごく安い101.48まで下がりました。ここから今年の10月まで1本調子で上がり、1年半ぐらい上がり続けました。これが第1波です。
この前の4回目のスーパーサイクルを見てみると、
1999年2月から2001年1月まで、2年ぐらい上がり、
その後2001年1月から2002年 1月までは1年間下がりました。
1年間の下落相場があって、その後から3波の上昇が始まっているので、今回も1年半上がった後に、半年、1年下がってもスーパーサイクル的に言うと不思議ではありません。
原油やエネルギー価格が落ち着いてきたり、インフレが落ち着いてくると、一旦スーパーサイクルは嘘だったのではないのかという下がり方をする可能性があります。
ただ本格的に始まるのはその後なのです。第3波、第4波、第5波が大きいので、それはさすがにSDGsのせいかもしれません。
今回の第1波は、サプライチェーンやボトルネックという、コロナのより戻しによるところが大きかったと思います。そして今回オミクロン株が出てきたので、またの渡航制限が出て、原油は結構大きく調整するかもしれません。
この第1波の上げから調整期間に入る可能性を鑑みて、ただそれも半年、1年後はリバウンドして大きな上昇になる、本当のインフレが来る可能性があるということも覚えておいてください。
IMF(国際通貨基金)世界経済見通し
オミクロン株とは関係なく、世界の経済成長が一服する可能性もあります。コロナ禍からのリバウンドで今年2021年がピーク、来年は成長が少し鈍化するというのが一般的な見通しです。
IMFが出している世界経済見通しのGDP成長率を見ても、来年は鈍化の見通しです。
世界経済:2021年 5.9%→2022年 4.9%
先進国:2021年 5.2%→2022年 4.5%
新興国:2021年 6.4%→2022年 5.1%
ただ面白いのは、日本をみると、2021年 2.4%→2022年 3.2%と日本だけ上がっています。
日本は今年ずっと緊急事態宣言を出していたので、他の国に比べると今年がよくないのですが、来年こそ上がってほしいと思います。
景気先行指数とされる「中国製造業PMI」
なぜ来年、経済が停滞する可能性があるのでしょうか。
先行指数である中国のPMIは去年の12月からピークアウトして、今年は継続的にゆっくりと下がっています。そして現在、中国は非常に特殊な状態です。
恒大集団の問題もあり、当局が企業に対し制裁を加えていますが、アメリカは「これはデカップリングである!」として、それほど中国を見ずに動いてきた側面があります。
しかしながら、中国はコモディティ市場においては、一番大きな買い手です。彼らの元気がなくなっていくということは、為替市場で豪ドルが冴えないというところで顕著にあらわれていると思います。
オーストラリアの一番の輸出品目は鉄鉱石です。鉄鉱石の価格が下がっているのは、中国が購入してくれないことが原因です。
これは一般的には恒大集団の問題で、不動産が不況になったことが影響しているといわれています。インフラには鉄筋などの鉄を使うため、不動産を新しく作らなくなると、鉄鉱石が必要なくなります。
しかし、そもそも中国はカーボンニュートラルに向けて大きくアクセルを踏んでいて、21年の鉄鉱生産も減産の計画をしていました。国が、もともとガスを出さないような政策を行っていたのです。これは、計画経済です。
つまり、中国の力がなくなっていくことを無視し、来年以降もコモディティだけが上がっていくというのは、考えにくいという状況にあります。
米金融政策、タカ派が台頭していたが・・・
一番の注目は、アメリカは金融政策をもっとタカ派的に転換できるのか、ということです。
インフレ率である米CPI(消費者物価指数)をみると、前年同月比で6ポイントを超えています。こんなにもインフレになっているのか、という感じがしています。
バイデン政権の支持率が下がっている理由が、ガソリン販売価格にあります。
Thanksgiving Day(感謝祭)はアメリカの人にとっては、日本のお正月のように実家に帰る人が多くいるようです。そして皆で七面鳥を食べます。里帰りでは移動を伴うため、その時のガソリン価格を非常に重要視するようです。
表からわかるように、バイデン政権になって価格がジャンプアップしました。国民は、このガソリン高をバイデン政権のせいであると思ってしまうのですが、実際には様々な複合的な要因で原油価格やエネルギー価格があがっています。
しかし、バイデン政権というのは、大統領選挙を戦う時から再生可能エネルギーを進める方針でした。化石燃料分野は縮小化しようと打ち出しており、実際にパイプラインの許可を出さないことがありました。それを国民は知っているため、バイデン政権のせいでガソリン価格が上がっていると思っている状態なのです。
そしてバイデン政権は、このインフレをなんとか抑制するために、FRBに対して圧力をかけているのではないかと言われています。パウエル議長が再任されたことからも、そのように推察できます。
パウエル議長は、金融取引の違法とまではいかないまでも、議長としてどうなのか、ということがあったために、再任されるか否かは揉めていました。
結果的には再任されましたが、バイデン氏が指名するのに非常に時間をかけた背景には、裏でパウエル氏にインフレ抑制するように圧力をかけていた可能性があります。そうすると市場では、FOMCがタカ派的に変わってくるかもしれないと感じ始めています。
FRBのウォラー理事とクラリダ副議長は以下のように述べています。
- ウォラー理事
「金融緩和をより急速に解除すること」を支持 - クラリダ副議長
「12月のFOMCでテーパリング加速について議論することが適切だ」
11月からテーパリング(量的緩和縮小)を始めていますが、ものの1ヶ月でそれを加速する議論をするとなると、マーケットは楽観視して株を買っている場合ではなくなります。一旦、手仕舞いした方がいいという動きになりかねません。そのため、12月14日と15日開催されるFOMCは大注目です。
オミクロン株の感染拡大という不確実性が出てきましたので、タカ派色がどうなるのが注目していますが、薄れるのでしょうか?12月中旬ぐらいからマーケットは、非常に大きく動くリスクがあると頭にいれておいていただければと思います。
オミクロン株拡大警戒で米金利は軒並み低下
米国債券利回り(2年~30年)のグラフです。一番下のラインが2年債(短期債)で、ブルーのラインが5年債です。短期ゾーンは右肩上がりになっていることがわかります。
一方で、上のラインの20年債、30年債は右肩下がりになっています。足元では一斉に下がっていますが、これはオミクロンが原因です。
多くの人は、債券市場に資金を逃がしていて、債券買いになっているため、利回りが下がっています。このトレンドがどうなっていくのかが、非常に重要であると考えています。
FRBは11月15日からテーパリング開始
22年にも利上げの可能性を織り込んでいたが・・・・
一般的には、多くの方はドルインデックスをみると思いますが、それぞれにインデックスがあります。円インデックス、ユーロインデックス、ポンドインデックスなどです。この表は、それぞれのインデックスの強さを一度に比較できる表です。
左側の上下大きく揺れているところが、コロナショックの時です。コロナショックの時に、傾向として、円とドルが上がり、円高ドル高になり、豪ドルやニュージーランドのオセアニア通貨は大きく下がりました。
今は、ドルと円が上向きになりつつあります。そして、豪ドル、カナダ、ニュージーランドは下がってきています。これが交錯するかどうか、オミクロンの影響の様子見が必要です。
ドルのトレンドライン(赤いライン)をご覧ください。6月のFOMCでテーパリングの議論が開始されていたことが明らかになりましたが、6月からドル高が始まっています。テーパリングと聞くと、ドルインデックスは右肩上がりになり、他の通貨が右肩下がりになってきていたことがわかります。
12月のFOMCでタカ派的なトーンを崩さず、来年の利上げ見通しが2回、3回などの体制になると、更にドル高は進み、他の通貨は下がるトレンドが続くと思います。想像以上にハト派にならない限りは、継続すると私は思っています。
穀物、食料品価格上昇は続く?
穀物や食料品価格は上がり続けていますので、この点は注意が必要です。今、食料油(パーム油やキャノーラ油)の値段が上がってきています。
チョコレートやクッキーやカレーのルーのパッケージ裏を見ると植物油脂と記載されていますが、食料油の価格が上がると、そういった加工品を作っている会社はコスト増になります。J-オイルミルズや日清などの有名企業は今年だけで4回も食用油の値上げをしています。
食用油だけではなく、小麦の価格も少し上がってきています。そうなると政変が起こりやすいので、気を付けたいところです。貧しい国では、食料品の価格が高騰すると大変なことになります。食べられないという不満は、政治への不満へ直結しやすいのです。
今年の冬もラニーニャになる可能性が高まっていますが、そうすると穀物の生産への打撃のリスクがでてきます。ますます価格が上がってくると、貧しい国では政変のリスクが高まります。
オミクロンリスクでも、新興国でのロックダウンや行動制限により、フラストレーションがたまり、嫌なフードになりそうであると感じています。
最後に・・・
最大の懸念は、来年2月の北京オリンピックです。開催できるのでしょうか。もし、オミクロンに従来のワクチンが効かないとなると、その開発と生産供給に100日程度かかる見込みですので、北京オリンピックには間に合いません。
中国国内では恐らく、ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ製のワクチンは使用せず、中国製を使用していると思います。中国国内での感染はどうなっていくのかを考えると、東京オリンピックが1年延期になったように、今回もそのような可能性もあると思います。その辺も、注視しています。
もしオミクロン株の脅威がそれほどでもなかった場合、株は一気にあがるでしょう。そして12月のFOMCはタカ派的になりますので、来年からの株は気を付けた方がいいと思います。
今、色々な複雑な要因が絡み合っていて、金融政策なのか、オミクロンなのか、インフレなのか、どれを主軸テーマとして先を見通したらいいのか非常に悩ましい状態です。