FRBパウエル議長再任の意味
★★★上級者向け記事
2期目のFRBパウエル体制へ
11月22日、米バイデン大統領はパウエル氏をFRB議長(再任)に指名した。議会上院で民主党急進派は承認に反対するだろうが、大半の民主党議員と共和党議員は賛成するゆえ、間違いなく2期目に入る。
パウエル議長は1期目、FRBの近代史において最もハト派的な議長となった。インフレが消滅したかのような時代にあって、完全雇用の実現を優先させてきた。2期目は、雇用を犠牲にしてでもインフレ対策を優先するという、これまでとは逆の対応を強いられるかもしれない。
パウエル氏にとっても、彼のハト派的な実績を評価して、再任を決めたバイデン大統領にとっても、そうした転換は痛みを伴う可能性がある。それはまた、ここわずか1年で経済状況が大きく変化したことを反映するものだ。インフレ率は6.2%と、31年ぶりの高水準にある。
雇用はパンデミック前のピーク時を依然として420万人下回る一方、人手不足が広がり、賃金の上昇は加速している。その全てがFRBの掲げる2%のインフレ目標を脅かしている。
パウエル氏をはじめとするFRB当局者は今のところ、コロナ関連の障害が解消するにつれてインフレ率が低下することに望みを託している。
しかし、パウエル氏がハト派に転じた前提条件は既に過去のものとなったリスクが高まっている。そうだとすると、金利の大幅な引き上げが必要になる可能性が範中となり、リセッションリスクを高め、バイデン大統領の政治的命運への脅威となりかねない。
パウエル氏は決して金融革命の担い手として選ばれたわけではない。プライベート・エクイティ(PE)の元幹部で、ブッシュ政権下で財務省入りした。
その後、党派的なバランスから穏健派の共和党員を必要としていたオバマ大統領が、2012年に同氏をFRB理事に任命した。もともとはタカ派寄りで、FRBが債券を購入して長期金利を抑えることに違和感を示していた。
しかし、彼は柔軟に他者の意見を受け入れている。会話においては自身をハリネズミというよりキツネだと評している(ハリネズミは単一の原理を全てにあてはめるが、キツネは多種多様で変化していく情報を活用する)。
トランプ大統領から2018年にFRB議長に任命された頃には、パウエル氏はタカ派的な本能を脱ぎ捨てていた。まさに「キツネの如し」だ。
パウエル氏は同年の講演で、中央銀行のモデルは自然失業率の存在(それを下回るとインフレが加速する)や、失業率とインフレ率を完全に均衡させる中立金利の存在など、不正確で観測不能な経済概念に依存していると述べていたが、その言葉は現実のものとなった。
失業率は着実に低下し、50年ぶりの低水準である3.5%に達したが、問題となるような賃金や物価の上昇の兆しは現れなかった。実際、インフレ率はFRBが目標とする2%を下回り続け、パウエル氏は2019年に小幅な利上げを撤回することになった。
昨年のパンデミック下で、失業率が大恐慌後の最高となる15%近くに達し、インフレ率が0.2%に落ち込んだことから、こうしたハト派傾向は強まった。
FRBは金融危機を回避するために、金利をゼロ近辺に引き下げ債券購入を再開。企業や市場参加者に巨額の融資を行った。パウエル氏らFRB当局者は昨夏、金融政策の枠組みを一新。
FRBは今後、インフレ率を単に2%に戻すだけでなく、目標をやや上回る水準を目指し、それによって長期的にインフレ率が平均2%となるようにする方針とした。
パウエル氏は講演で、「堅調な労働市場が特に低・中所得者層の多くにもたらす恩恵の尊重」という新たな発見を反映し、FRBはもはや、失業率のいかなる水準も、低過ぎるとはみなさないだろうと述べた。
FRBはまた、インフレ率が2%超に向かい、労働市場が最大雇用に戻るまで、金利をゼロ近辺に維持すると表明している。進歩派の多くはバイデン氏に対し、共和党員のパウエル氏を、自分たちの目標により合致する民主党員に交代するよう求めていた。
トランプ氏はまさにそうした行動を取り、民主党の経済学者であるイエレン氏(現・財務長官)から、パウエル氏に交代させた。
ただ、パウエル氏の完全雇用を目指す決意の方が重要だとの見方もある。
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(この記事は 2021年11月24日に書かれたものです)