懸念される米国の国際的パワーの行くえ
★★★上級者向け記事
カブール陥落後の米国の国際的地位
カブール陥落が世界における米国の地位に与えた影響について、米国では見方が二分されている。
一方には、米国の国際的な評判に容易には回復できない傷がついたと考えるCFR(外交問題評議会)の見方がある。米国のアフガン撤退が、バイデン政権の目論見に反して混乱に満ちたものとなったことを厳しく批判する。
アフガンの政府と国軍の崩壊が想定外の速度で起こってしまった結果、米国の主導により国際社会が20年にわたり取り組んできたアフガニスタンの国家建設のための努力が、またたく間に水泡に帰し、米国やNATO(北大西洋条約機構)、日本などに協力してきた多くのアフガン人が国外に脱出できずにとり残されてしまった。
彼らCFRは、こうした不手際が米国の信頼性に対する強い疑いを世界に抱かせたと主張する。
他方では、CSIS(戦略国際問題研究所)グループのようにアフガン撤退は長い目で見れば、米国の国政的な地位の低下ではなく、向上につながると主張する。
1975年のサイゴン陥落(ベトナム戦争の終結)が当初喧伝されたような、米国の衰退をもたらさなかったことを強調する。
その後実際に起こったのは、米国の力の回復であったと言う。
必然性のない戦争から手を引いた米国は国内の状況を立て直し、ソ連や中国との外交をよりうまく展開して最終的には冷戦に勝利することができた。
今回のカブール陥落も、同様の結果につながる可能性が高いというのが彼らの見立てである。
米国の国益にそぐわないアフガニスタンでの戦争に終止符を打ち、中・ロという米国にとっての「真の戦略的競争者」に集中することにより、米国はアフガニスタン撤退の際の不手際によってもたらされた国際的な評判の低下を克服し、長期的には同盟国をはじめとする他国の支持を得て世界での地位を強化することができるのだと、彼らCSISメンバーは主張する。
だが実際には、これら二つのうちのどちらの方向に米国の国際的な威信が変化していくのかは、まだ決まっていない。
将来の世界での米国の地位は、世界とのかかわり方に関するこれらの米国の意志が、どのようなものになるかによって大きく違ってくる。
そして、カブール陥落をみた国際社会が何よりも注視しているのは、まさにこの点なのである。
カブール陥落により、米国の国際的な威信が大きな打撃を被ったというCFRの指摘には疑う余地がない。だが、今後の米国の意志と行動次第では、その失点は挽回不可能ではないであろう。
米国の威信の失墜が、既に定まった事実であるかのように語るのは適切ではない。
今日の世界にはアフガニスタン以外にも様々な難題が存在しており、その多くは米国や、その同盟国、パートナー国にとってアフガン問題以上に、さし迫ったものになっている。
そうした問題に注力するために米国が「米国史上最も長い戦争」から手を引くというのであれば、それは撤退の正当な理由になる。
バイデン大統領は就任以来、「過去の課題に対応するためではなく、今日や未来の課題に取り組むため」の外交を行なうと強調してきた。
そして、米軍のアフガニスタン撤退が完了した後の演説でも、「過去ではなく、未来に目を向ける時がきた」と宣言した。
もし、このことばを裏付けるような米国の意志が世界に示され続けるのであれば、国際社会が米国を見る眼は変わり得る。
ここで、鍵となるのは中国政策である。
バイデン大統領は「未来の課題」の中で、米国主導のルールに基づくリベラルな国際秩序への中国による挑戦の問題を特に重視している。
今この挑戦が深刻になっているのは、米国が「永遠の戦争」に莫大な費用と人員を投入している20年の間に、中国がインド太平洋地域を中心に対外的な自己主張を強めるのを看過してしまったからである。
もし、これからの米国がこれまでアフガンでの戦争に使われてきた資源の相当部分を中国の挑戦に振り向け、同盟国やパートナー国との連携をこれまで以上に主導して、インド太平洋地域の平和と安定のために力を尽くす意志を持てるならば、米国の国際的な威信と評価が向上する可能性は十分にある。
その意味では、後者のCSISグループの主張には正しさがある。だが、その可能性が現実のものとなるのは、あくまでも米国が実際にそうした行動をとることができた場合に限られる。
米国の威信の向上が必然であるかのように語ることもまた適切ではない。
そして、今の米国にとって深刻なのは、バイデンをはじめとする米国の指導層がそうする意志を繰り返し表明しているにもかかわらず、その意志が実行に移されるかどうかを疑う声が、国際社会に少なくないことである。
この疑念を払拭できなければ、米国の国際的地位の再興は望むべくもない。
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(この記事は 2021年10月24日に書かれたものです)