英ポンドのロングは避けるべし

★★★上級者向け記事
追加利上げ期待
昨年末、BOE(英中銀)がサプライズ利上げ(0.1%→0.25%)を決定し、インフレ警戒を示したことで市場の追加利上げ期待が高まったほか、リスクセンチメントが良好な中でポンドは対円、対ドルで上昇。
その後、1月半ばにFOMCによる米国利上げが3月から開始され、利上げペースも前回の引き締め局面よりも速くなるとの観測が広がり、米ドル高が進むと、ポンドは一旦失速したが、1月終盤以降は再びBOEの利上げに対する思惑の中でポンドは再度上昇(1£=1.33ドル台後半→1.35~1.36ドル台、1£=152円台後半→156円台)してきた。
2月3日、BOEはMPC(金融政策委員会)において市場予想通り、政策金利を25bp引き上げて0.50%とした。
さらに昨夏に示していた通り、政策金利が0.50%に達したことで、8,950億ポンドの保有資産縮小(テーパリング)を開始、保有国債の償還分への再投資を直ちに停止(2025までに2,000億ポンドの圧縮見込み)し、保有社債の金額(200億ポンド規模)を2023年末までに売却する方針を示し、政策金利が1%に上昇する際にはバランスシート縮小(QT)のペースを速めるとした。
また、声明では「(経済が中銀のシナリオに沿って進めば)、今後数ヵ月の間に緩やかな引き締めを幾分か追加することが適当」とした。
ただ今回、最も市場の目を引いたのは、50bp利上げを主張したメンバーが、9人中4人もいた点だ。
彼らは「最近の賃金の伸びとインフレ期待(中長期のインフレ率上昇)が、一段と根付くリスクを縮小し、当面のインフレを持続的に目標に回帰させるため、今回は引き締め度合いを高める必要がある」とした。
確かに、今回同時に発表された金融政策報告に於いて、今年のCPI(消費者物価指数)の見通しは前回11月報告時から大幅に上方修正された。
これにより、市場は次回3月会合での25bp利上げを完全に織り込み、一部に50bpもの利上げを織り込む動きも見られている。
しかし、よく見るとBOEはインフレについて、今年の4-6月期にピークをつけた後、急速に上げ幅を縮小し、2023年には11月見通しを下回るとの見方になっている。
今回MPC(金融政策委員会)で多数派となった25bp利上げ賛成メンバーは、物価圧力の高まりについては懸念する一方、今後世界的に物価が低下することによって、中銀の見通し以上にインフレが鈍化するリスクを指摘。
さらに、大幅利上げが借入コストの大幅増に繋がり、インフレが目標を下回る可能性にも警戒を示した。
ベイリーBOE総裁は、
「多くの家計が収入を圧迫されていることから、インフレ高進と成長鈍化との間にはトレードオフがあるはず」
「投資家はBOEが長期にわたる連続した利上げに着手したと考えるべきでない」
と市場を牽制し、これを受けてこの日のポンドは上げ幅を縮小した。
また、翌4日にはBOEのチーフエコノミストも総裁と同様に、急激な利上げを市場が織り込まないよう釘を刺している。3月に実際に利上げが行われるかどうかについては、今後の経済データ次第だろう。
雇用や景気感が良好な状態でインフレ関連データが上振れすれば、市場はBOEの2月見通し以上のインフレ加速を意識し、3月の大幅利上げを一段と織り込む動きに出る可能性がある。
その意味で11日に発表された10-12月の実質GDPが前期比年率+3.9%(前期+4%)と、3四半期連続のプラス成長となったことは、確かにフォロー材料になり、ポンドも上昇した。
ジョンソン首相危うし
しかし、通貨の動向に政治情勢も大きく影響するのはどの国・地域でも共通のマターだ。
英国では、ジョンソン首相が苦境に立たされている。2月4日、ジョンソン首相の上級スタッフ(主席補佐官、主席広報官、主席私設秘書、主席政策官)4名が相次いで辞任した。
このうち3名の辞任は首相官邸でのパーティー疑惑の責任を取ったものであるのに対し、主席政策官の辞任は、ジョンソン首相が野党・労働党スターマー党首を虚偽に基づいて非難
(1月末の議会でスターマー党首が検察庁長官時代に性犯罪を犯した人物を、起訴しなかったと批判、ところがBBCがスターマー氏は同人物を担当していなかったと報道)、謝罪を進言したものの聞き入れられなかったことを直接に理由に挙げている。
首相をロンドン市長時代から支えてきた最側近の主席政策官からも愛想を尽かされた形で、
人心離反や求心力低下を如実に表している。
1月31日にパーティー疑惑に関する内部調査の報告書が公表されたことを受け、ジョンソン首相は謝罪とともに、官邸の統治機構やスタッフの刷新を約束していた。上級スタッフ3人の辞任はこれを反映したものとみられるが。
ジョンソン・シンパであった主席政策官辞任の衝撃を和らげるために、3人の辞任発表を前倒しにしたとの見方も浮上している。保守党のある非閣僚議員は今回の辞任劇を「首相官邸にとって悪夢ばかりか、完全なメルトダウン」と評した(BBC)と批判している。
今のところ、ジョンソン首相の保守党党首不信任投票の開始に必要な54名の書簡は、集まっていない。不信任投票は年に1回の縛りがあるため、多くの議員は投票のタイミングを見極めているとされる。
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(この記事は 2022年2月15日に書かれたものです)
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